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乙女ゲームの悪役令嬢に転生したので闇の『魅了』スキルで攻略対象の男たちをカップリングしていきます  作者: カタリベかたる


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6/9

闇に仕組まれし暗黒の罠に落ちるがよい!

 マクローン城——湖畔に聳えるこの古城は、この国の王家の一族の発祥の地でもある。王族が王都の宮殿に移り住んだ今では別荘として使用されているが、以前は外征の足がかりであるとともに、隣国からの侵略を防ぐ要衝の砦でもあった。本来の役割に相応しく石造の堅固な城壁に囲まれ、装飾の省かれたあくまでも実用重視の外観は、排他的で功利主義的なこの国の王家の本質を体現しているようでもあり、また、そのところどころに残る破壊の痕跡は、かつて行われていたであろう激しい戦闘と、王家の辿ってきた血生臭い歴史を否応なく想起させる。私とカストル兄様、そして従者と護衛を伴った一行は、巨大な威容を誇る城門をくぐり、かつて”漆黒の城砦”と呼ばれたその古城の中へと入った——てか、どうでもいいけど、”漆黒の城砦”→真っ黒→”マクローン城”って、ちょっと制作スタッフやる気無さ過ぎよね。『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』って、色々なモノのネーミングに「ま、コレでいいか」的なナゲヤリ感を漂わせてて、登場人物の名前もかなりテキトーに決められたようなフシがあるの。まぁ、人名だけ妙に凝ってるような異世界転生モノに比べれば、ある意味潔いとも言えるんだけど。

 さて、それはともかく。城門をくぐると、そこは今や戦時の面影など感じられない優美な庭園が整えられ、その中央を石畳で敷き詰められた道が、城の正面の玄関口に向けてまっすぐに伸びている。黒ずみ古びた城壁とは似つかわない、真新しく真白い石畳の上を、私たちを乗せた馬車はしばらく走り、やがて城の扉へと続く階段の前で止まった。

 従者が馬車の扉を開く。まずカストル兄様が馬車から降りた。兄様は振り向くと優しい微笑みを浮かべ、


「さあ、」


と短い言葉で促しながら私に手を差し伸べる。私はその手をとり、静かに馬車から出た。

 そして、私はついに、マクローン城の石畳の上に降り立った。

 ——来てしまった。ここが次のイベント発生ポイント。私が『魅了』スキルによってカストル兄様を闇の魔法の虜にし、そして私が処罰され追放されることを運命付けられる場所だ。

 石畳を踏み締めたヒールの高い靴ごしに、城全体を覆う瘴気が足元から身体へと浸み込んでくるような感覚を覚える。背筋に寒気が走り、未知への不安と恐怖に身体の震えが止まらない。しかし、恐れてばかりいられない。私は必ず、この運命を変えてみせる。そのための必勝法なんて結局思いつかなかったし、思いついたとしても、どうせ最も重要なところで、私の身体は私の意思とは無関係に「悪役令嬢としての運命」に従った行動をとるのだろう。たとえそれでも、最後まで抗ってやるわ。この間のジークとの顔合わせイベントだって、偶然の要素があったとはいえ、最悪の事態だけは回避できた。最後の一瞬、全ての希望が潰えるその時まで、運命が完全に定まっているなんてありえない。一体何が私を「悪役令嬢としての運命」に陥れようとしているのかは解らないけど、自分自身では無い別の何かに、私の運命を決められてたまるもんですか。私の運命は、私自身が決める。

 決意を新たに私は、城の扉へと続く白い石造りの階段を見上げた。ゆるやかな勾配を描く長い階段のその最上段の踊り場に、私を待ち受けるようにして、多くの従者・召使をともなったジークが立っている。第7王子、じきじきのお出迎えだ。


 ジークは、馬車から降りた私たちの姿を認めると、その優雅な足取りで、長い階段を一歩一歩と降りてきた。全てにおいて気品に溢れるその立ち居振る舞い。ただ歩いているだけでも一枚の絵画にできそうな、その美しさについ見惚れてしまいそうになる。しかし、それに気を取られていてはならない。イベント発生ポイントであるこの城に私たちを呼び出すということは、何らかの企みがあり、罠が仕掛けられているに違いないのだ。

 とは言え、この城に私たちを呼び寄せたジークの真意は、正直なところ全く読めない。しかし、単に別荘に招くだけなら私が何度も断りを入れているのだから別の機会にしてもいいはずのところを、是が非でもこのタイミングで「カトリアーナの闇の魔法発動イベントが発生する時期」を選ぶかのように呼び出してくるからには、絶対に何かある。それはジークの意思なのかもしれないし、もしかすると、ジークを動かす別の何か——この世界を動かす、何か別の大きな存在——によるものなのかもしれない。しかし、それが何であれ、私は今確実に、用意された筋書き、破滅への一本道のレールに乗せられようとしている。そして、そのレールに乗せようとしているのは、誰あろう、目の前の階段を降りて近づいてくるジークなのだ。きっとこの古城は、私とジークの対決の場所になる。

 

 そんな予感を胸に、私はついに目の前までやってきたジークを見た。私とジークの視線がぶつかりあい火花を散らす——ということはない。ジークの眼差しは、私の視線を華麗にスルーして、隣のカストル兄様に注がれている。あぁハイハイ、そうでしたね。あなたの気持ちは分かってますよ。まったく、本当にわかりやすいわ。こんなラブラブ光線を発射してたら、誰でもジークの気持ちに気付きそうなものなんだけど、不思議なもので誰も気づかないのよね。まぁ、これには一応理由があって、この世界はやはり乙女ゲーム世界だからなのか、「恋愛は男女のもの」っていう文化というかコンセンサスというか、固定観念みたいなものが全ての人に共有されてるっぽいのね。そもそも「同性愛」という概念自体が存在しないし、衆道とか男娼なんてものもありえない。なので、ジークがどれだけカストル兄様に熱っぽい視線を送っていても、第三者がそれを見たところで「男同士の熱い友情」「義理の兄(予定)に対する信頼の眼差し」「将来の妻(予定)を見るのが気恥ずかしいのでその兄の方を見ている」という、明後日の方を向いた理解になってしまう、というわけなの。でもまぁ、よくよく考えるとそれが普通よね。男と男の目が合うだけで「これはモシカシテ……(*≧∇≦)キャ---!!!」とか思ってしまうのは腐女子脳と言います。日常生活でそう思ってしまう人は反省してグラウンド10周してきてください。


「ようこそ、我が王家の別荘へ。」


 さて、そのジークが、挨拶の口上もそこそこに、私をエスコートしようと私の前に手を差し出してきた。ほんと、こういうトコよね。私には全然気がないクセに、一応は「将来のお妃候補として憎からず思っている」ように振る舞うんだけど、なんかもう気持ちが全然こもってないのよ。まぁ普通の女の人ならこれでもイチコロだろうし、私もジークの内心を知らなかったら怪しいところだけど、それを知っているだけに、彼が何をしようが、そこにある底意が気になってしまう。

 何にせよ、私としては、せっかく消えた(と思う)ジークルートの斬殺エンドを復活させないためにも、ジークとはできる限り距離をとりたい。ここで私が、ジークに気があるような素振りを見せれば、ジークはともかく、周囲で見ているメイドや従者たちのみならず、カストル兄様まで勘違いしてしまう。そうなると皆で揃って私とジークをくっつけようとするはずだ。それは本当に困る。私にその気はないということを、常にアピールしなくては。

 私は、ジークの差し出した手に少しおびえるようなふりをして後ずさりすると、そばに立つカストル兄様に近づき、その腕に縋りついた。


「おやおや……」


 カストル兄様は私の行動に驚いているが、そんなことに構ってはいられない。兄様の腕にしがみついたまま、私は眼球に思いっきり力を入れて涙腺を刺激する。そして十分に目が湿ったところで、顔を少し上げ、上目遣いにカストル兄様を見た。名付けて奥義・庇護欲惹起目力光線だ。(※光は出ません)

 私の潤んだ瞳に見つめられたカストル兄様は、初めは驚き顔ではあったものの、ここはやむを得ないと感じたのだろう。困惑の混じった苦笑いを浮かべながら、嘆息するように言った。


「やれやれ……仕方のない娘ですね。」


 クリティカルヒット。う~ん、私あざとい!だけど、ここはカストル兄様を盾に使うしかない。兄様ごめんなさい!兄様のためでもあるの!

 そして計算通り……じゃなくて、私のことを誰よりも思ってくれる、頼りになるカストル兄様は、私の行いをフォローするように、ジークに対して非礼を詫びる。


「男性からお誘いを受けるのは初めてなので、恥ずかしがっているようです。ここはひとまずご容赦ください。」


 そうよ!恥ずかしいのよ!乙女ゲームだから!私まだ処女だから!——え?前世ではどうだったって?……うるっさいわねぇ、ほっといてくんない?そこはストーリーと関係ないでしょ!女性キャラの処女非処女を気にするのは一昔前のキモいオタクだけよ!チャラ男に一回ヤられて捨てられた人を分かった上で嫁にもらった鬼平を少しくらい見習ったら?……って、誰に言ってんのよ私。

 まぁとにかく、「嫌がってるんじゃなくて、恥ずかしいんですよ」というニュアンスで、ジークの面子を潰さないようにするカストル兄様のトーク力はさすがね。ヴィトン伯爵家の次期当主だけあって社交術も心得ている。兄様、素敵!血の繋がった兄妹に生まれてしまったのがつくづく惜しいわ。

 そして無論、ジークもここで変に意地を張ったりはしない。


「いえ、私の方こそ不調法でした。今日はご兄妹でお招きしたのですから、お二人ご一緒にこちらへどうぞ。」


 立板に水を流すような、澱みないセリフの応酬だわ。現実の会話って、もっと噛んだり詰まったり吃ったりして、こんな台本を朗読するようにスムーズに進まないんだけど、そこはやっぱゲームね……じゃなくて、これは貴族の社交界における華麗な会話術によるもの、とでもしておきましょうか。


 ジークの誘いに応じて、私たちは二人して階段を登った。ゆるやかで長い階段を登り切った先は広い踊り場になっている。そしてそこに開き放たれた大きな扉から、私たちは城内へと入る。

 扉をくぐった私は目の前に広がる光景に息を呑む。内部には想像を絶する広大かつ豪華絢爛たる空間が広がっていた。前世でいうところのゴシック様式に似た柱に支えられた高い天井。それと対をなす広い床にはいかにも高価そうな毛皮の絨毯が敷き詰められており、その上には、贅を尽くした調度品がそこかしこに、しかし下品に見えない程度に程よい密度をもって設えられている。四方に聳り立つ壁面は元が戦争用の砦だったとは思えないほどに壮麗な彫刻が施され、それらに飾り立てられるように並べて据え付けられているのは、歴代の王たちの巨大な肖像画だ。今や絵画の中の住人となり、この世界の歴史の一部となったかつての王者たちは壁の高い位置から私たちを睥睨している。それらは来訪者を歓迎するというより、武力によって成立した王家の権威をもって、城への侵入者を威圧しているように感じられる。そして、その居並ぶ過去の王者たちの列は暗く長い廊下の奥へと続き、さらにその先へと私たちを誘っているようでもある。そこで待ち受けるものは一体何か——

 私の前世の記憶に刻まれている事実がある。この、王の肖像画が立ち並ぶ廊下の奥は行き止まりだ。しかし、塗り固められた壁の向こう側に、地下へと続く長い階段が隠されている。その階段を降りたところ、この古城の最深部にあたる場所に「暗黒の大広間」と呼ばれる空間が存在する。そして原作のストーリーにおいて、その「暗黒の大広間」こそが、カトリアーナの闇の魔力発動イベントの発生ポイントなのだ。

 ——しかし、今の時点ではそこへは向かわない。私たちは来賓を迎えるための別館へと案内される。ジークが先導し、それに私たちが続く。先ほど見た玄関口のロビーとうって変わって、来賓を迎える別館への通路は、広くはあるが薄暗く、どこか陰鬱な雰囲気を漂わせている。天窓から差し込む陽の光と、ところどころに燭台が設えられてはいるものの、それだけでは十分に照らし出すことができないほどに広く長い廊下を、私たちは無言のまま歩いていく。暗闇に向かって真っ直ぐに伸びているその廊下は、私が落ちる絶望の運命へと続いているのだろうか。なんだか、ひどく心細い。私は思わずカストル兄様の腕を強く握りしめた。


「カトリアーナ、大丈夫。私がついています。」


カストル兄様は、私がしがみついている腕とは反対側の空いている片方の手で、私の手を優しく包んでくれた。それは、単に私を気遣っただけではない。充溢する陰鬱な空気をカストル兄様も感じとっているようだ。それほどまでに、尋常ならざる重苦しい空気に、この城内は満たされている。


「はい、ありがとう兄様。」


そんな私たちのやりとりが聞こえたのだろう、前を歩くジークが私たちへと振り向いて声をかけてきた。


「何も案じることはありません。この城は、古くは戦場であったことは確かですし、少し暗い雰囲気を感じられるかもしれませんが、今ではただの別荘に過ぎない。平和な時代の訪れとともに、内装も全面的に改められました。かつての戦禍の折には”漆黒の城砦”などと称されていたようですが、そのような陰気な印象は、しばらくここにいればすぐに感じられなくなります。」


確かに、この城の外観はともかく、その内部からは戦いの痕跡は完全に消し去られている。しかし、それはあくまでも見た目の上でのことだ。この城に立ち込めている異様な空気は、目に見えないが、私には確実に感じられる。そして、何より、私は、この城の最深部にある「暗黒の大広間」の存在を知っているのだ。

 カストル兄様の腕を握る私の手に、無意識に力がこもる。私の怯えを和らげようと、カストル兄様が私の手を優しく握り返してくれた。私がカストル兄様を見上げると、兄様も私を見つめかえす。その優しい瞳と、手の温かさが、私に勇気を与えてくれる気がした。


 そんな私たち二人の姿を見たジークが、やや非難めいた口調で言う。


「しかし、少々距離が近過ぎではないでしょうか?」


ジークからの予想外の指摘に、カストル兄様はその真意をはかりかねたようだ。


「と、言いますと?」


問い返してきた兄様に、ジークは一瞬考えるような仕草を見せると、改めて私たちのほうに向き直って、やや遠回しな調子で言う。


「ご兄妹とは言え、男女なのですから。」


そこでカストル兄様は、ジークの指摘の意味するところを理解したらしい。


「これは、はしたないところを……。カトリアーナ、いいかい?」


カストル兄様が「少し離れなさい」というように目で合図する。

 しかし、私は直感した。これは罠だ。ジークは、私とカストル兄様を引き離そうとしている。そしてそれはおそらく、私をこの城に呼び出した理由と何かの関係があるに違いない。はっきりとした目的はわからないが、この城は闇の魔力発動イベントの発生ポイントだ。そしてそのイベント発生ポイントに、このタイミングで私を誘い込んでいる以上、ジークは私の「闇の魔力」に関係する、何らかの策略を肚の内に秘めているものと考えた方がいい。

 とにかく、ジークの思う壺にハマってはいけない。そう判断した私は、カストル兄様の促すところとは逆に、顔を埋めるようにして兄様の腕に強く抱きついた。


「こらこら……」


カストル兄様が困惑した声を上げる。王子から言外に「離れろ」と言われているわけなので、兄様としては少しの間だけでも離れて欲しいのだろうとは思うが、ここは兄様の言うことを素直に聞くわけにはいかない。意地でも離れるもんですか。

 すがりついた私の腕を無碍に引き剥がすこともできず、カストル兄様はただただ困り顔で、ジークに向かって詫びることしかできない。


「これは、お見苦しいところを……申し訳ありません。」


ジークも、それ以上の追及はできないと思ったのだろうか。やや白々しく、余裕を見せるように、笑って言った。


「ハハハ、これは麗しき兄妹愛といったところでしょうか?」


 私はカストル兄様の腕に埋めた顔を少し上げて、チラッとジークの方を見た。ジークは表面上は笑顔を作っている。しかし、その眼差しに湛えられているものは、底暗く鈍い光……そこに邪悪な意志を見た私の背中に冷たいものが走る。

 やはり、これは何かある。ジークの口車に乗らなくて正解だった。


寄り添い合う私たち二人を尻目に、ジークは踵を返すと再び歩き始めた。そして、私たちもその後に従う。



(続く)

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