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乙女ゲームの悪役令嬢に転生したので闇の『魅了』スキルで攻略対象の男たちをカップリングしていきます  作者: カタリベかたる


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3/9

闇のアイテムよ、呪われしその力を解き放つがよい!

 次の日から、ジーク王子が頻繁に屋敷に訪れるようになった。お目当ては、将来のお妃候補である私、カトリアーナ=ヴィトン……ではなく、その兄の、カストル=ヴィトン。表向きは私目当てで来ているように見せかけているけど、私の目は誤魔化せない。ジークがカストル兄さんと話している時の楽しそうな笑顔、カストル兄さんをを見つめる時の恍惚とした表情、そして帰り際、悲しげな瞳で振り向く後ろ姿。全方位からどう見ても、間違いなくガチ恋です。ありがとうございました。これは私の邪推や妄想ではない。既にウラはとれているのだ。なぜなら私には、前世から持ってきた秘密の道具がある。


 いや、前世から持ってきた、というのは正確ではない。実際それは私の住む屋敷の裏の倉庫で、ある日偶然見つけたものだ。その道具とは「眼鏡」。古びた戸棚にしまわれていたこの眼鏡を見つけたときの衝撃を私は忘れられない。なぜなら、その眼鏡は、私が前世で身につけていたものと全く同じだったから。細い銀縁に、枠からはみ出すほど分厚いレンズ。眼鏡屋にいくたび、店のジジイに「いやぁ、ホントに目が悪いねぇ!」と言われるのが嫌で仕方なかった。かけると目が小さくなる、度の強い瓶底レンズ。野暮ったく思われたくなくて、つけたり外したりしていた銀縁眼鏡。前世から持ってきたものは記憶しかない私にとって、物質的に実在するそのメガネは、転生した私と前世とをつなぐ、特別なアイテムのように思えた。

 薄暗く、埃っぽい倉庫で、私は試しにそのメガネをかけてみた。


「あれ?」


眼鏡をかけるとレンズの端に、三角形のアイコンが写っている。


「なにこれ?」


汚れだろうか。メガネを外して息を吹きかけ、布でゴシゴシ拭いてみる。しかし落ちそうにない。汚れではないようだ。私はもう一度、そのメガネをかけて、三角形のアイコンの浮いているところ、現実には何もないはずの場所を人差し指でタッチした。


=================

|| コマンド:

|| ステータス

|| 装備

|| タスク

|| 移動

|| 声

||

|| どうしますか?

=================


目の前に突然ウインドウが開いた。これは、『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』のコマンド画面だ。はは~ん、なるほど。これはアレね。異世界転生ものによくある、敵のステータスを見れるアレ。前世でそういう作品をいくつも見たわ。私は窓際に歩み寄り、窓越しに、屋敷の庭の一角に立てられている厩舎へと目をやった。そして、そこで飼育されている馬の一頭を視界におさめ、「ステータス」と書かれたあたりを指先でタッチする。


=================

|| 馬

|| 職業:家畜

|| レベル:67

|| HP : 257

|| INT : 15

|| CHA : 132

|| ATK : 25

|| DEF : 32

|| AGI : 102

|| MAG : ---

|| MGR : 28

|| KRM : 5

|| SAN : 50

=================


どうやら、馬のパラメータらしい。「職業:家畜」ってなんか直球すぎてイヤね。それじゃあ私は「職業:伯爵令嬢」になるのかしら……私はハッとして窓から離れ、次に、倉庫の片隅に立てかけられた鏡の前で自分の姿を写した。そしてもう一度「ステータス」にタッチする。


=================

|| カトリアーナ=ヴィトン

|| 職業:---

|| レベル : ---

|| HP : ---

|| INT : ---

|| CHA : ---

|| ATK : ---

|| DEF : ---

|| AGI : ---

|| MAG : ---

|| MGR : ---

|| KRM : ---

|| SAN : ---

================


自分のパラメータは見れないようだ。ガッカリしたような、ホッとしたような……しかし、これは便利だわ。だって、いちいち説明しなくても「異世界もののお約束」で済ませることができる……って、そうじゃなくて、これで人の能力を数値化できるなら、自身の先入観や思い込みを排除して、客観的に他人の能力を評価できるもの。敵を知ることは戦略の基本ってことよ。まぁ確かに、思考を放棄して安易かつ安直に数値に頼ってる感じが、いかにも異世界転生モノの設定って気もするけど、どれだけ愚劣で志の低さを感じさせるアイテムでも便利なら使わないとね。……さて、先ほどは馬だったが、やはりここは誰か人間のステータスを見てみたい。私は駆け足で倉庫の外に出た。屋敷の広大な庭園を走り抜けて人影を探すと、倉庫から少し離れた庭先で、メイドのセーラがシーツを干している。すかさず、セーラの姿をメガネのレンズの中に収め、「ステータス」にタッチした。


================

|| セーラ=サロモン

|| 職業:メイド

|| レベル : 48

|| HP : 325

|| INT : 89

|| CHA : 73

|| ATK : 230

|| DEF : 173

|| AGI : 198

|| MAG : 13

|| MGR : 25

|| KRM : 1559

|| SAN : 67

================


知力も魅力もほどほどに高い。呼べばすぐに駆けつける素早さも数値のとおりだ。私からみたセーラの評価と大体一致する。やはりこのメガネ、人間の能力値をレンズに映し出すことができるに違いない。しかしセーラ、あんた強いわね……。そしてわたしは、ふと気づいた。ウインドウにある「声」というコマンドに。『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』にこんなコマンドはあっただろうか。私は、セーラを見ながら、物は試しと「声」コマンドをタッチした。


「————!!!」


レンズ越しに新しいウインドウが開いたと思うと、ものすごい速度でテキストが表示されはじめた。私は驚愕に息を呑む。これはセーラの声、いや、声には出せないセーラの”心の声”だ。内面の感情を書き連ねたおどろおどろしい長文が猛スピードで次から次へと表示される。画面をスクロールしても、スキップしても追いつかない。私は慌ててウインドウを閉じた。そしてしばし呆然と立ち尽くし——やがて私は、その場にへたへたと座り込んだ。震える指でかけていたメガネを外すのがやっとで、全身が脱力感に襲われ、動けない。恐ろしいものを見てしまった。それは人の心に隠された闇。ある意味で闇の魔力以上に恐ろしい、本物の”闇”だ。見てはならない、人の心の底暗い部分を垣間見てしまった衝撃と悔恨と罪悪感が、私の胸中に去来する。

 そんな私の姿にセーラが気づいた。仕事の手を止めた彼女は、朗らかな笑みを浮かべながら私に近付き声をかける。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


澄んだ瞳、優しげな声。いつも明るく仕事熱心なセーラ。そのセーラが心の奥底にあんな闇を抱えていようとは。


「い、いえ……なんでもないわ。」


なんだか居た堪れなくなった私は、逃げるようにその場を立ち去った。私が見たセーラの心の内側のことは、彼女の名誉のためここでは触れない。しかし私は、「みだりに人の心の内側を覗いてはならない」ということを学んだ。この眼鏡はある意味で闇の力を秘めたアイテムだ。みだりに使わない方がいい。とはいえ、いつか何かの役に立つかもしれない、と思うところもあったので、一応肌身離さず持っていることにした。



 さて、そんなこんなで、あまり使わない方がいいけど、いつか使う時が来るかもしれないと思って持ち歩いていた私のメガネの出番がついにやってきた。

 そう、それは前回からの続き、晩餐会後のバルコニーでの出来事だ。バルコニーに佇むジーク王子を見て、私は「キュピーン☆」と直感した。ジークは間違いなく恋をしている。あの落ち着きのない仕草や、心ここに在らずといった素振りは、設定上は冷静で理知的なはずのジーク王子からかけ離れている。そして、ジークの見つめる先にいるのはカストル兄様。となると、ジーク王子の想い人はカストル兄様……との推測が成り立つ。しかしちょっと待ってほしい。2人は男同士である。男が男を好きになる。そんなことがあるの?それって、ネット民がよってたかって誰かを嘲笑するための、イジメ的な程度の低いネタじゃないの?

 そこで私は思い出した。あのアイテムの存在を。


(——時は今!)


雨がしたしる五月かな、私は普段から持ち歩いている眼鏡ケースに手を伸ばした。この眼鏡で、ジーク王子の心の内側を読めば、彼が一体誰に恋しているのか、その本当の気持ちがわかるはず。ついに封印していた我が禁断のアイテムの力を解き放つ時が来た!

 しかし、眼鏡を取り出そうとした私の手を、心の内に生じた逡巡が押し留める。果たして「ジークの心の内を盗み見る」という行為が、許されるのだろうか?私は自問自答した。人の心を盗み見るような真似をしてはいけない。しかし、私は見たい——葛藤。人は誰しも、善と悪の二面性をもっている。私、カトリアーナ=ヴィトンも一個の人間としてその例外ではない。私の心の中に住む善と悪、天使と悪魔が、「人の心を覗き見る」という行いの是非について、激論を闘わせはじめた。


天使カトリアーナ「いや、ちょっと待ちなさい、私。人の心をみだりに覗いちゃいけないでしょ?セーラの時に学んだじゃない!そりゃ見たい知りたいっていう気持ちはわかるわよ?だけど、誰かの心の内側に踏み込んで興味本位で覗き見るなんて、人としてどうなの?」


悪魔カトリアーナ「斬殺エンドという運命を変えるためには、ジーク王子の肚の内を知っておかなくてはならないわ。つまりこれは私自身が生き抜くための戦略よ。それに、これは作品世界のことを理解するために必要なこと。作品世界を深く理解するためには、キャラに対する理解も深めなくてはならない。攻略対象キャラの心の内側を知る、これはプレイヤーの義務よ!!」


 天使と悪魔の相剋に私の心は揺れ、千々に乱れる。




カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……




チーン♪




「——いやまぁ私、悪役令嬢だし。」


悪魔が勝利した。そう、そもそもカトリアーナは悪役令嬢。そして闇の魔法の使い手でもある。天使など心の中にいようはずもない。そうよね?うん、そうに違いないわ。それでいいし!


(ちょっとだけ、ちょっとだけよ。決して覗き見するわけじゃないわ。確認するだけよ。)


誰に言い訳しているのかわからないが、私は心の中で弁解の言葉を並べながら、ケースから取り出した眼鏡をかけた。


 デュワッ!


 メニューウインドウが開く。そして私は、ジーク王子をメガネの視野の中に収め、「声」コマンドをタッチする。



==============

|| ジーク

|| 「ああ、カストル……

|| 僕はなぜ、こんなにも君に

|| 心惹かれてしまうのだろう。」

|| →次へ

==============



ブホッ(吐血)。いきなりですか。たった3行で有罪確定。まぁ別に罪じゃないけど……とりあえず「→次へ」ポチッとな。



==============

|| ジーク

|| 「王位をめぐる諍いに疲れ果てた僕の心に、

|| 君の笑顔はひとときの安らぎをくれた……。

|| 僕だって、望んで王家に生まれたわけじゃない。

|| 好きで王位を争っているわけでもない。

|| だけど、こんなこと誰にも話せない。

|| 話したところで分かってもらえるはずもない。」

|| →次へ

==============



あ、これ知ってる。原作ゲームのジークルートで、ハッピーエンドの直前のシーンで、真の主人公に言うセリフだ。私このシーンが好きで何周もしたから覚えてる。この後は確か「そんな孤独な僕を、君は癒してくれる。ずっと僕のそばにいて、僕を支えて欲しい。」って続くのよね。ってか、それここで言っちゃう?それもモノローグとはいえ、カストル兄様に?「→次へ」ポチー。



=============

|| ジーク

|| 「君だけには分かってほしい……

|| 僕の本当の気持ちを。なのに、

|| それを君に伝えることは許されない——

=============



そしてジークは、深いため息をつきながら、静かに目を伏せた。

憂いを帯びた切なげなジークの横顔が、優しくも冷たい月明かりに照らされる。

夜闇に淡く浮かび上がるシルエットは、美しくも儚く、そして悲しい。


 きゅるるうぅん……


……あれ?何これ?なんなの、この感じ?なんだか、ゲーム本編とセリフのニュアンスが変わってる。いや、それよりも何よりも、男が男を好きになるって、こんななの?乙女ゲームや恋愛小説や昼メロで見てきた男女の恋愛とは何かが違う。ネットで目にした弱い者イジメっぽい同性愛ネタとも全然違う。これって一体???

 私は、自分の中に芽生えた新たな感情に戸惑う。しかし、その時のそれは一瞬のことで、すぐに私の思考は、もう一方の別の重要な事柄に置き換えられた。何にせよ、ジークはカストル兄様のことが好き!これはもう間違いない。つまり、ジークは私に『魅了』されていないし、もし仮に真の主人公がジークルートに入ったとしても、私の斬殺エンドは発生しない。そう結論付けていいだろう。

 私は、最悪の結末を回避した!


「ヤッター!」


溢れ出る感情を抑えきれず、私は歓喜の叫びを上げて飛び上がった!

突然大声を出して現れた私に、ジークは心底驚いたようだ。

ごめんね、ジーク……。



(続く)

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