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第6話 月ヶ瀬美朔のやぼう。ぱーと①。

 手早く飯を済ませ、席を立つ。

 渡良瀬が少し向こう側でグループの中から視線を向けてくるが、わざわざ抜けてこちらに来るわけも無いだろう。

 さっさと視線を流し、教室を出る。


 これから月ヶ瀬と落ち合うわけだが、はてさてどう接したものか。

 途中友達でもないクラスの可愛い系イケメンとすれ違ったりしつつ、その足で中庭へと踏み入ると、やはりというべきか生徒の数が多い。


 うちの高校の中庭は真ん中の円形広場と、それを貫く石畳み以外の部分はカフェテラスのような木製の床になっている。


 そこへ転々と植物や木も植え付けられていたりと、良い感じの雰囲気になっているためここで昼食を摂ったり昼休みを過ごす生徒は多い、いわば学校の人気スポットだ。

 当然そんな所にソロで来る奴はいないので、手ぶらでぽつんと突っ立っている男子高校生俺の場違い感は尋常じゃない。

 早くも疎外感を感じ始めるが、幸い見知った顔がすぐにこちらに気づき手を振ってくれた。


「じゅうくんこっちこっち~!」


 おっす~月ヶ瀬ちゃん元気してた~? みたいに手を振り返すのは絵面が酷い気がするので、軽く一礼して応じる。

 月ヶ瀬と合流し一安心するのも束の間、今度は別の理由で落ち着かなくなってきた。


「月ヶ瀬だけか」


 いや、他にいても困るんだけどね? なんというか、周りはグループなのに対してこちらは男女二人だけって、ねぇ。実際ちょいちょい視線感じるんだよね。たぶん月ヶ瀬が可愛いからだと思うんだけども。


「え、そうだけど……い、嫌だった⁉」


 月ヶ瀬がやや狼狽え気味に迫ってくる。


「あー、いやそういうわけじゃないんだけど……」


 二、三年はこの場所に慣れてるからわざわざ来ていないのか、見た感じ一年生が多そうだ。ていうかリボンとかネクタイの色でわかる。


 あちらも俺達の事を一年生と認識しているだろうから、見る者によってはあんなイケメンでもない男がこんな早い段階で付き合ってんのかとか好奇の眼差しを向けてきている気配があった。


「ここである必要あったのかとちょっと思ってな」

「ちっちっち」


 俺の言葉にリズムよく指を振る月ヶ瀬。

 嫌がられてない事はすんなり受け入れたか、またいつもの調子を取り戻したようだ。


「密談っていうのはあえてこういう人の多い所でやった方が怪しまれないものなのだよ」

「今から密談するのか」


 初耳だ。

 まぁ密談はよく分からんが、確かに目立たないところに二人でいるところを目撃されたらそれこそほぼクロ確定みたいになるか。


 大衆の面前だとしてもイチャコラしてたらクロ判定は受けるだろうが、程よい距離感で話してるだけならまだまだグレー、なんなら人によってはシロ判定をくれるだろう。


「ではでは」


 月ヶ瀬が端の方で小洒落た感じに植え付けられている竹の傍へと腰を下ろすと、こちらに目を向け自らの隣をタンタンと手で叩く。

 え、隣に座ってもいいって事? ……いや流石に無いよな。


「?」


 どうするべきか考えあぐねていると、月ヶ瀬がこちらを窺うかのような視線を向けてきた。


 これは……オッケーって事だな。

 紳士であれば遠慮するところなのだろうが、元来俺はそんな甲斐性など持ち合わせていない。

 普段は俺みたいなのと噂されたら悪いよなと思って一歩引いているが、あっちが無防備晒すなら遠慮なく便乗しますとも。


「それでは失礼して」


 体裁だけでも紳士的な言い回しをしつつ、欲望の赴くまま月ヶ瀬と隣へと腰を落とす。

 心なしか周りの視線を惹いてしまった気がするが、別に俺は悪くない。誘ってきたのはあっちだ。


 きっとこういう考え方の奴が有名になったらハニートラップに引っかかるんだろうな。でも俺は有名になり得ないので関係ないと思いまーす。


「えへ、えへへ、へへ……」


 笑ったのは俺じゃないぞ。月ヶ瀬だ。


「いや急にどうした」

「っ!」


 突然笑いだすのでつい素で尋ねてしまうと、月ヶ瀬は耳を紅くし背筋を伸ばす。


「あ、い、いや、座れるの嬉しいなって! うん!」


 強張った笑みをこちらに向けながら、月ヶ瀬は人差し指を立てる。

 なるほど、どうやらこの中庭は日によっては座れないほど混雑しているらしい……いやそんな事ある? 


「そんな事より渡良瀬さんの事だよ!」

「手を打つとかどうとか言ってたな」

「そう! 手を打つ! ぺちこーん!」


 無邪気に月ヶ瀬は手を小さくスイングさせる。

 え、ほんとに平手打ちだった……?


「聞いた感じ、渡良瀬さん悪い事してる自覚たぶんあまり無いからさ、そこらへんちゃんと分からせた方がいいと思うんだよ」


 月ヶ瀬が力強い視線を俺の方へと向けてくるが、受け止めずに空の方へと目を向ける。まぁそういう事だよな。


「うーん……」


 恐らく月ヶ瀬は俺の事を思ってそう言ってくれているのだろう。第三者視点から見ればおばちゃんの件に関して、俺が渡良瀬に傷つけられたと解釈してもおかしくはない。実際、その時俺も思う所はあったのだが、今はなんというか、一周まわって虚無なんだよな。


 分からせるって結局自分の事を理解してもらうための一つの手段に過ぎないわけで、なんというか今更あいつの理解とか欲しいか? って聞かれてもなんかそこまでというか。元々諦めてはいたんだが、もはやわざわざ諦める事すら虚しいというのが正直な所だ。


「別に放っておいてもいいんじゃないか?」

「ううん、良くないと思う!」


 いや即答。少しくらい間が開くかと思ったんだが。


「うん、やっぱり絶対良くない!」


 ぐぐいっとさらに顔を寄せてくるので、ついこちらも顔を向けてしまう。

 言葉通り目と鼻の先には必死そうな月ヶ瀬の顔。


「月ヶ瀬はそんなに良くないと思っ……」

「うん!」


 えぇ……めっちゃ食い気味なんだけど。


「……」

「……」


 束の間の硬直。隣り合った二人が至近距離で顔を見つめ合うさまは周りから見ればどう映るのだろうか。


「え、やば? あの二人ちゅーするんじゃね?」


 ふと聞こえたひそひそ声。


「きゃーやば、同じ一年だよね? はやくない?」

「こんな大衆の面前でどんなメンタルしてんだ……?」


 なるほど、傍目から見たら今の俺たちはそう見えるのかー……。


「っ~!」


 目の前では恐らく俺と同じ声を耳にしたであろう月ヶ瀬が湯気を出さんばかりに顔を紅潮させている。


 俺がやれる事は二つ。急いで離れる、もしくは開き直ってキッスをするッ!


「なんかすまん」


 流石に離れ距離を置きました。


「わ、私の方こそなんか、えと、ごめん……」


 月ヶ瀬がスカートの裾を握り身体を縮こませ俯く。


「チキったな」

「女に恥かかせたぞあいつ」

「ああいう男無いよねー」


 散々な言われようだ。しかも全部俺に対してと思われる。むしろ俺がそんな事したら炎上案件だろざっけんな!


「それで、月ヶ瀬はどうしたいと思ってるんだ?」


 流れを変えるべく話を戻す。


「"えっ⁉ そそそそそ、それは! 初めてなもので! 憧れは確かにあるんだけど!」

「……違う、渡良瀬の事だ」

「あ、あ、あ、あわわ、渡良瀬さんの事か! そそそそうだよね⁉ 知ってたよ⁉」

「分かったからとりあえず落ち着いてくれ」


 努めて冷静に諭すと、月ヶ瀬も次第に落ち着きを取り戻し始める。


「すううううううはあああああああ」


 大きく深呼吸をすると、完全に平静を取り戻したのか月ヶ瀬は目を瞑りコホンと小さく咳払いする。


「それで、具体的にどうすればいいかって事なんだけど」

「ふむ」


 なんか急に話進んでない? 


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