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第14話 渡良瀬リンカーネーション(というわけでもない)

 学校終わりはいつものように騒々しい。

 昨日で脳も心も帰らぬ人となったため、今の俺は一人ぼっちだ。

 あのころは三人でバカやったよなと感傷に浸っていると、くいくいと誰かが横から制服の裾を引っ張ってきた。


 その力は非常に弱々しく、わざわざ見なくてもこちらに気を遣っていそうなのが想像できる。


「どうした?」


 目を向けると、今やすっかり大人しくなっている渡良瀬が制服の裾をつまんでいた。

 渡良瀬は少し逡巡したように視線を彷徨わせると、おもむろに口を開く。


「昼休み山添とお昼ごはん一緒に行った……」

「月ヶ瀬の事か? 三年生の時だけクラス一緒だっただろ」


 流石に一年クラスが一緒だっただけあって認識はしているらしく、こくこくと頷いた。


「仲いいの?」

「まぁ、それなりだとは思う」


 一緒に遊びに行ったりとかは無かったが、月ヶ瀬事変以降は顔を合わせたら話すことも多かったし、三年の時は同じクラスだったわけだからな。


「そっか……」


 渡良瀬はそっと俺から指を離し肩を落とす。

 もしかして残念がってらっしゃる……? だとすればまぁ、悪い気はしないですね。デュフ。


「るーこち! 今日部活行く~?」


 渡良瀬の背後からぬっと姿を現し抱き着くのは珍妙なニックネームのとぱちゃん、もとい釜戸だった。確か渡良瀬は茶道部だったか。


「えと、今日はやめとこうかな」


 渡良瀬が目を瞬かせつつ言うと、釜戸はふーんと考える素振りをみせる。


「じゃ、私も今日はやーめた」


 部活に対する姿勢軽いな。


「じゃあさじゃあさ、せっかくだしどっか寄ってかない?」

「え……」

「確かいつもは東生駒駅? で降りてるんだよね」

「う、うん」


 どんどん進んでいく話にやや戸惑い気味の渡良瀬。


「じゃあ学前駅経由でもあんまり距離変わらない感じだよね。最近そっちで新しいカフェできててね、一緒に行ってみない?」

「あー、えと、どうしようかな……」


 釜戸の提案に悩んだ様子の渡良瀬だが、何故かたまにちらちらと視線をこちらに送ってくる。

 何か俺に言いたげだな。でもこういう姿の前例なさ過ぎて意図が分からん。乗り気じゃないから助けろって事か?


「山添君も、もちろん行くよね?」


 渡良瀬の意図を汲みかねていると、突然釜戸がそんな事を口にする。


「はい?」


 突然すぎて何を言われたか理解できず、変に聞き返してしまった。

 釜戸の方を見てみるも、あざとさを感じさせる所作で小首を傾げるのみだ。


「いや、行かないけど」

「え~なんでなんで~!」


 いかにもわざとらしく釜戸が駄々をこねるような発言をする。

 そんな事言ったって特に友達でもない、ましてや異性からの誘いとかマルチか詐欺か宗教勧誘目的だけだろ。そうでなければうわぁ~本気しちゃったんだ~とか言って馬鹿にされるケースがほとんどだ。ソースは俺。少しでも誘いに乗るそぶりを見せれば、十割十分渡良瀬はそう言ってきた。


 ま、当の渡良瀬についてはもはやそんな事など言ってくる気配を微塵も感じさせないのだが。


「や、山添と一緒に行きたい……!」


 そぉれどころかめーっちゃすうっごいまっすぐな眼で誘ってきてるみたいですねぇ。


「ほらほらぁ~るこちもそう言ってるんだしぃ」


 釜戸に言われ、流石に少し恥ずかしくなったのか、渡良瀬は身を縮こませつつも何度も首を縦に振る。

 ほんとなんでこんな事になっているのか。分からないが……。


「それじゃあ、行っとくかあ……」


 正直、まんざらでもないんです。



――というわけでいつもは使わない満員通学バスに揺られる事十数分、学前駅へと到着した。

 曰く、駅に併設するルシエールという謎複合施設内部に釜戸の言うカフェが入っているらしい。


 バス降り場のすぐ近くで伸びるエスカレーターを利用すれば、割とすぐそこに目的のテナントがあった。

 立て看板にはヨネダカフェと書いてある。


 釜戸先導で中へ踏み入ると、小洒落たレトロな雰囲気を醸す空間が広がっていた。そこそこ大きい会社が運営しているのか、座席数は多めでけっこうな賑わいを見せている。

 間もなくして、店の雰囲気とはややアンマッチな金髪のギャル店員がやってくると、割と雑めに四人席へと案内された。


 おしぼりとお冷が乱雑に置かれている間に渡良瀬が座ると、向かい側の席へと釜戸が座る。


「ごゆっくりどぞー」


 一仕事終えた店員がさっさとこの場から退散していくのをしり目に、向かい側同士で座る二人を見比べる。

 うおー、これ知り合いとかと行ったらどっち座るか悩むやつ。


 まぁ今回の場合は渡良瀬側一択なので良いのだが、たまにそういう場面に出くわした時はほんと悩むんだよな。


「どしたの山添くん、もしかして私の隣、座りたいの~?」


 口元に手を添え、ニヨニヨしながら釜戸が尋ねてくる。一瞬考えただけだろうに。

 呆れつつ釜戸から視線を外すと、渡良瀬が不安そうな眼差しでこちらを見ていた。


「……流石にな」


 ごちりつつ渡良瀬の方へと腰をかければ、先ほどの不安げな表情とは一転、嬉しそうに頬を染め微笑む。

 それじゃあまるでめちゃくちゃ俺の隣が良かった奴みたいじゃないか! 


「きゃーあっつうい」

「熱くないしさっきから釜戸さんはなんなん……」


 出し抜けに釜戸がそんな事を言いだすので、つい反抗してしまったが違和感に気づき言葉が喉につっかえる。


「あれれ~? 私このおしぼりの事言ってるんだけど、触らないで温度とか分かるんだぁ?」


 いたずらめいた笑みを浮かべながら、釜戸がおしぼりをひらひらと振る。

目を凝らせば確かに湯気がうっすらと見えた。

 試しに開いてない方のおしぼりに触れると、確かに触り続けようものなら火傷しそうなくらいの温度はある。

 おしぼりから手を離すと、すかさず釜戸が視線を合わせてきた。


「おやおや? 熱くないんじゃなかったっけ~?」

「こ、こやつ……」


 昼休みの時点でもしかしたらと思っていたが、今確信した。

 この女、かつての渡良瀬に匹敵するサディストだ……!


 だがかつての渡良瀬が痛いメスガキならこっちはなんというか、メギツネとでも言うべきだろうか。なんというか、虐げ方が何段階か渡良瀬より成熟している気がする。

 侮れないなと警戒していると、ふっと甘い香りが漂ってきた。


「ざぁこ」


 不意に聞きなじみのある声が耳元でささやく。

 あまりに既視感のある言葉に、恐る恐る横へと目を向けると、そこには小馬鹿にこちらを見下してくる渡良瀬が――いなかった。


 隣で座る渡良瀬はもじもじしながら口元の辺りで指を折り曲げ、恥ずかしそうに頬を染めながらこちらの様子を窺っている。


「……一応聞いとくが、お前はなんでそんな事を言ったんだ」

「や、山添はそう言われた方がやっぱり嬉しいのかなって思って」

「んなわけあるか!」

「わっ、ご、ごめんなさい」


 つい声を張ってしまうと、渡良瀬が頭に手を乗せ縮こまる。

 素直なのは良いが昔に比べてよわよわすぎるのも考えものだな……。


「こっちこそすまん、分かってくれたらそれでいいんだからな。その、あれだ、間違ってても俺のためにやってくれたっていうならその気持ちは嬉しいぞ」

「う、うん。えへへ……気を付ける」


 渡良瀬が笑みを見せてくれたのでホッとする。

 いやなんでホッとしてんだよ。


「あらあら~」


 そして相変わらずにやにやとこちらを見やる釜戸。

 これ、安易についてきたの間違いだったかもしれないな?

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