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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第11章『終焉の茶会、忘却と蛮族と通過儀礼』

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05.始まりを告げる春の風

春の匂いが、エルミナ学園の職員室を満たしていた。


冬の名残をほんのりと残しつつ、窓の外にはやわらかな陽射し。

新しい季節のはじまりを告げる風が、カーテンをやさしく揺らしている。


「……ようやく、ちょっと落ち着いたな」


グレンが呟き、窓の外を眺めた。


数日前まで混乱していた職員室は、今では一応の秩序を取り戻しつつある。

樹が正式に教員として加わってから、月の負担もほんのわずかに減り、教員たちの顔にも幾分か余裕が戻っていた。


そして今、話題はひとつ──明日の入学式。


「さてさて!」


月がいつものテンションで立ち上がると、手元の紙をぺらっと掲げる。


「今年度のクラス割りと人数の件ですが〜……今のところ以下の通りでーす!」


教師たちが一斉に顔を上げる。


「まず、初等部新1年生は……10人! 1クラス! 担任は、未定です!」


ざわっ。


「続いて、初等部2年生は去年の1年生40人が進級。

2クラスで担任は柊先生とヒサメ先生、継続です!」


柊が「了解」と片手を挙げ、ヒサメはふわりと笑っていた。


「初等部3年生は、去年の2年生30人が進級して1クラス。

担任は橘先生、継続ですね!」


「承知しました」


橘がメガネを押し上げながら頷いた。


「そして、中等部1年生!

新規入学20人に加えて、進級できなかった昨年度の10人を加えて、合計30人!

担任はセレナ先生です!」


「は〜い、がんばりま〜す」


セレナが手をひらひらと振る。


「そして……中等部2年生は……進級者、ゼロです!」


静寂。


「……0人進級って……」


「逆に潔いな……」


「なにがあったの……」


教師陣がそれぞれに動揺と困惑を表情に浮かべ、ぼそぼそと呟き始める。

だが、月はまったく気にしていない様子で、にこにこと満足げに資料を片づけた。


「では、次に始業式についてですが〜」


職員室が一斉にピンと緊張する。


「学園長。今年こそは三分以内で挨拶を終えてくださいね!」


「……善処しよう。善処な……」


神崎が遠い目をしながら返した。


その隣で、ラットンが慌てて机を叩く。


「で、で、今回の始業式の挨拶は誰なんだい!?

前回のセリフ劇は我輩の心臓に悪すぎたぞ!

今度は落語か!? ミュージカルか!?」


月はくるりと回って、にっこりと笑った。


「………………当日までのお楽しみです!」


「ヒィッ!?」


ラットンが耳を伏せて机の下に身を沈める。

職員室の空気が一気に不穏になった。


「……おい、また何か企んでるぞ」


「まさか、去年以上のことを……?」


「誰か止めて……」


ざわざわと騒ぎながら、それでも誰も月には逆らわない。


新年度の準備は、進んでいた。


教師たちの目には、期待と不安と、少しだけ諦めが混ざっていたが──

それでも、この場所で始まる新しい一年に、誰もが確かに備え始めていた。

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