04.護衛と教師と、時々魔導具
静寂が戻った夜明け前。
ギルドの前には、月だけがぽつんと立っていた。
三人──シキ、樹、リエは、騒ぎが収まった途端に、まるで風のように姿を消した。
何があったのか、どうして現れたのか、そしてなぜあんなにも当然のように去っていったのか。
寒さも忘れて、月はしばらく呆然としていた。
「…………何だったんでしょうか、あの人たち……?」
ぽつりと漏れた声は、夜明け前の冷たい空に溶けていく。
「というか、街を滅ぼしたとか言ってませんでしたか……?」
さすがに冗談であってほしいと願いつつ、月は深くため息をついて扉を開けた。
***
翌朝。
エルミナ学園、職員室。
普段より少しだけ早い時間にもかかわらず、教員たちの間には奇妙なざわめきが漂っていた。
何かを言いかけては口を閉ざし、視線を交わし、誰かが何かを待っているような……そんな空気。
その扉を、月が勢いよく開けた。
「おっはよーございまーす!」
元気いっぱいの声が室内に響く。
だが──
「………………」
誰一人、返事をしなかった。
全員が黙って、月の背後を見つめている。
「えっ……なに!? なんかついてます!?」
慌てて振り返る月の目に入ったのは──
「よっ、月」
すぐ背後で立っていた樹だった。
いつの間にか一緒に職員室に入ってきていたらしい。
そのまま樹は当然のように空いていた椅子に腰を下ろし、脚を組んだ。
「え!? なぜ!?!?!?!?!?」
月の声が跳ね上がる。
「昨日帰ったんじゃ!? 帰ったでしょ!?!?」
「まあな。
けどシキから命令があってな。お前のそばにいて護衛しろって。……まあ、そうなるよな」
樹はあくまで当然といった顔で返す。
「つまり……?」
「教師してやるよ。
ただし、シキの護衛が本業だからな。シキがどっか行くときは、そっち優先する」
「わかりました!!」
月は即答だった。
「担当科目は!!」
「理系全般はいけるな。魔術系もいける。
好きなのは魔導具の開発だけどな」
「っしゃあああああああ!!」
月は拳を握り締めて叫んだ。
「魔導具の専門家手に入れたぜええええ!!」
その瞬間、職員室の空気がぐらりと揺れる。
椅子を引く音、書類を落とす音、小さく息を呑む声。
教員たちがざわつき始めた。
「キャラぶれしてんぞ〜、月」
樹が笑いながら呆れた声を投げる。
「だって……!
こっちはずっと足りてないんですから……!
もう! ほんとにありがとうございます!!」
月はぺこりと深々と頭を下げた。
その様子に、樹は苦笑しつつ肩をすくめる。
「……ま、よろしくな。教師仲間さんよ」
朝の陽が差し込む職員室で、月と樹の新しい日常が、あっさりと始まった。




