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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第11章『終焉の茶会、忘却と蛮族と通過儀礼』

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03.月のために、誤魔化しの言葉

黒い霧がゆっくりと形を成していく。


輪郭が現れ、指が、腕が、胴体が──やがて、樹が何事もなかったように姿を戻した。


「ほんっとうに………毎回毎回………」


立ち上がりながらぼやく声は、どこか悟った響きを帯びている。


「どこに行ってたの? お兄様」


リエが首をかしげながら問いかける。

その瞳には、悪意も疑念もなかった。


「ちょっとそこまで」


「そう」


会話がそれで完結した。

何が起きたのか、何が問題だったのか。

そんなことは最初から話題にすらならない。


月はぽかんとそのやり取りを見ていたが、ふと、思いついたように口を開く。


「……あの、三人って、兄妹なんですか?」


「俺は関係ない」


シキが即答する。

月の方すら見ないまま。


「俺とリエちゃんだけが兄妹」


樹が肩をすくめて続ける。


「血は繋がってないけどね」


リエの返答に、月は小さく頷いた。


「そうですか……」


気まずい空気でも、不穏な気配でもない。

けれど、どこか噛み合わない。

そんなやり取りのあと、月は改めて問いかけた。


「それで……わたしに、何か用事だったんですか?」


「まあ……色々と指令を受けて、月を守るように言われてたんだけど……」


シキが面倒くさそうに頭をかく。


「色々あって…………」


樹の補足も投げやりだ。


「今になったのよ。

ほら、貴女、運無いじゃない? こっちも仕事を抱えてるから………」


「そうそう。

でも見つけたし……大丈夫大丈夫」


そんな適当な三人の言葉に、月は一瞬だけ目を細めたが、すぐに何も言わず口をつぐんだ。


そのとき。


低く唸るような振動音が空気を震わせた。

魔力の共鳴。それが、シキの腰元から発されていた。


魔導通信機──それが鳴っていた。


「…………もしもし」


シキが受話器を取り、声を潜める。

通信の向こうから、聞き覚えのない声が響いた。


『見つけたか? 月のこと』


一拍の沈黙。


シキは月の方にちらりと視線を向け、わずかに間を置いて答える。


「…………見つけてない。まだ探してる」


『そうか。引き続き頼む』


短い返答の後、通信は切れた。


シキは小さく息をつきながら受話器を戻し、つぶやいた。


「……なんとかごまかした。セーーーフ」


「ああ、月は見つけてない」


隣で樹がさらっと補足する。


「いや……あの……」


月が困ったように声をあげるが、シキは親指を立ててにっこり笑った。


「バレたらバレた時だ。

そん時はそん時ってことで」


「そういうの、ちゃんと考えたほうがいいと思うんですけど……」


月のツッコミも空しく、話題はするりとすり替わる。


「と、いうわけで帰るわ」


リエが唐突に言った。


「また来る」


シキが片手をひらひらと振る。


「今度はもっとゆっくりな」


樹も笑って続けた。


「え……」


月が何か言いかけたときには、三人の姿はすでにギルドの出口に向かっていた。


その背中に、月はぽつりと呟く。


「……忙しい人たちですね……」

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