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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第11章『終焉の茶会、忘却と蛮族と通過儀礼』

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01.再会は、夜の帳に紛れて

夜の帳が降りるころ、三つの影が静かに街へと現れた。


通りには明かりが灯り、家々の窓からは人々の暮らしが垣間見える。

遠くから笑い声も聞こえ、平穏な時間が流れていた。


しかし、目指していた場所──聖教会の前に立ったとき、三人の足は止まる。


建物は変わらずそこにあり、扉も開いている。人の出入りも見える。

けれど、肝心の気配がなかった。


「……くそ!! 月がいない」


シキが苛立ちを隠さず、睨みを利かせる。


「遅かったか……」


いつきの声は静かだったが、わずかに滲む焦りが隠しきれなかった。


リエは目を伏せたまま黙っていた。


沈黙がしばらく続き、やがてその中から言葉がこぼれる。


「………どうするの? もう……これで何年……何千年………」


誰も返事をしない。

けれど、その沈黙の中で意思は固まっていった。


「…………よし」


「……聖教会ごと」


「この街を、滅ぼそう」


理由も正義も必要なかった。

探し求めていた存在がまた逃げた。

ただそれだけで、充分だった。


雷鳴が走り、炎が上がり、悲鳴が夜を裂いた。


人々は混乱し、街は破壊されていく。

三人は何も言わず、淡々とそれを見つめていた。


理不尽に。容赦なく。

終わるまで、一度も振り返らなかった。


──そして季節は巡り、今。冬の夜。


白い息を吐きながら、シキは手にした報告書を睨みつけていた。


「……火龍が、エルノアの街に?」


その言葉に、隣の樹が即座に反応する。


「火龍っていうと、古代龍エンシェントドラゴンで……セレスの……」


「月がエルノアにいるのかもな……いや、クロマに会いに行っただけの可能性も……」


迷いの混じる声。

それでも無視できる情報ではなかった。


「リエちゃんに連絡しとくわ」


樹が魔術札を取り出して軽く呪文を唱えると、札は青白く輝いて空へと消えていった。


雪がちらつくエルノアの街。


人通りの少ない石畳を抜け、三人はギルドへと歩を進める。

建物の前で立ち止まり、迷いなく扉を開いた。


あたたかな光と、湯気と、賑わいが迎える。


その奥で──いた。


月がいた。


白いエプロンをまとい、笑顔でトレイを抱えて食堂を動き回る彼女の姿。

忙しく立ち働きながらも、客の一人ひとりに明るく声をかけている。


「……月!!!」


三人の声が重なった。


彼女は足を止めて振り返る。

ぱちりと瞬きをして、そして、にこりと笑った。


「??? どちら様ですか?」


その笑顔に、怯えも警戒もなかった。

あまりにも自然に、あまりにも無邪気に、まるで初対面のように。


時が止まる。


幾千年を超えて追い求めたその名は、目の前で、何の重みもなく呼び返された。


三人は、ただ立ち尽くすしかなかった。

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