01.再会は、夜の帳に紛れて
夜の帳が降りるころ、三つの影が静かに街へと現れた。
通りには明かりが灯り、家々の窓からは人々の暮らしが垣間見える。
遠くから笑い声も聞こえ、平穏な時間が流れていた。
しかし、目指していた場所──聖教会の前に立ったとき、三人の足は止まる。
建物は変わらずそこにあり、扉も開いている。人の出入りも見える。
けれど、肝心の気配がなかった。
「……くそ!! 月がいない」
シキが苛立ちを隠さず、睨みを利かせる。
「遅かったか……」
樹の声は静かだったが、わずかに滲む焦りが隠しきれなかった。
リエは目を伏せたまま黙っていた。
沈黙がしばらく続き、やがてその中から言葉がこぼれる。
「………どうするの? もう……これで何年……何千年………」
誰も返事をしない。
けれど、その沈黙の中で意思は固まっていった。
「…………よし」
「……聖教会ごと」
「この街を、滅ぼそう」
理由も正義も必要なかった。
探し求めていた存在がまた逃げた。
ただそれだけで、充分だった。
雷鳴が走り、炎が上がり、悲鳴が夜を裂いた。
人々は混乱し、街は破壊されていく。
三人は何も言わず、淡々とそれを見つめていた。
理不尽に。容赦なく。
終わるまで、一度も振り返らなかった。
──そして季節は巡り、今。冬の夜。
白い息を吐きながら、シキは手にした報告書を睨みつけていた。
「……火龍が、エルノアの街に?」
その言葉に、隣の樹が即座に反応する。
「火龍っていうと、古代龍で……セレスの……」
「月がエルノアにいるのかもな……いや、クロマに会いに行っただけの可能性も……」
迷いの混じる声。
それでも無視できる情報ではなかった。
「リエちゃんに連絡しとくわ」
樹が魔術札を取り出して軽く呪文を唱えると、札は青白く輝いて空へと消えていった。
雪がちらつくエルノアの街。
人通りの少ない石畳を抜け、三人はギルドへと歩を進める。
建物の前で立ち止まり、迷いなく扉を開いた。
あたたかな光と、湯気と、賑わいが迎える。
その奥で──いた。
月がいた。
白いエプロンをまとい、笑顔でトレイを抱えて食堂を動き回る彼女の姿。
忙しく立ち働きながらも、客の一人ひとりに明るく声をかけている。
「……月!!!」
三人の声が重なった。
彼女は足を止めて振り返る。
ぱちりと瞬きをして、そして、にこりと笑った。
「??? どちら様ですか?」
その笑顔に、怯えも警戒もなかった。
あまりにも自然に、あまりにも無邪気に、まるで初対面のように。
時が止まる。
幾千年を超えて追い求めたその名は、目の前で、何の重みもなく呼び返された。
三人は、ただ立ち尽くすしかなかった。




