09.ただいま。と、赤点警告
冷たい風が頬をかすめる夕暮れ時。
保健室からの帰り道、教師陣は月を囲むように歩いていた。
それぞれが言葉少なに歩を進める中、月の表情はどこか照れくさそうで、それでいて、どこか安堵しているようにも見えた。
「……重たい空気にならなくて、良かったですね〜……」
ぽつりと呟いた月の声に、ミミがくすっと笑う。
「まだ反省終わってないにゃ〜」
「え〜〜、もう十分反省しましたよぉ〜……?」
言いながらも、月の顔にはいつもの屈託ない笑顔が戻っている。
そして、自宅前。
玄関の前でじっとこちらを見つめていた二人の姿が目に飛び込んできた。
カノンと帝。
月の姿を確認したその瞬間、二人は勢いよく走り出した。
「姉さんっっっ!!!」
「のだっっっ!!!」
勢いそのままに、二人は月へと飛びつき、ぎゅっと抱きしめる。
「心配したんだからねえええええ!!」
「のだ!!!心配したのだ!!」
不安と安堵とが入り混じったその声に、月は小さく微笑みながら、二人の頭を撫でた。
「…………よしよし。心配かけてごめんね………」
その様子を、少し後ろで見ていた教師たちは、誰もが優しい眼差しを向けていた。
温かい時間が流れる。
けれど、月という存在は、それだけでは終わらなかった。
「それはそれとして、カノン……………」
「……え?」
「テストで赤点取ったら……………わかってますね?」
「え?!?」
「せっかくの感動回なのに、台無しなのだ!!」
帝が横から抗議するも、月は悪びれることなくにっこりと微笑んだ。
「ふふふ〜。感動と教育的指導は、別腹ですから〜」
「その使い方、間違ってるにゃ!!」
後ろからミミが即座にツッコミを入れる。
「あー……帰ってきたな、月先生……」
柊がぼやき、橘は苦笑い。
「全く……油断も隙もありませんね……」
ラットンが肩をすくめ、神崎がほっほっほ……と笑う。
笑い声に包まれながら、一行はゆっくりと家の中へと入っていった。
冬の空気はまだ冷たいはずなのに、不思議とその場には、春のような暖かさが満ちていた。
次章
11章「終焉の茶会、忘却と蛮族と通過儀礼」 は、
8月25日 20時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




