表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第10章『終焉の茶会、眠れる姫君と紅き守護者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/162

08.説教、そして反省会

保健室には、静寂が戻っていた。


けれど、そこに横たわる月の周囲には、異様なほどの“密度”があった。

ベッドの周囲を囲むようにして、学園の教員たちがずらりと立ち並んでいる。


月は、シーツを胸元まで引き上げたまま、どこか申し訳なさそうに目を伏せた。


「…………あの〜……ご迷惑を……おかけしました……」


その言葉が終わらぬうちに、誰かの怒声が飛ぶ。


「そういう問題じゃない!」


最初に口を開いたのは、橘葵だった。

きらりと眼鏡を光らせながら、一歩前へ出る。


「月先生……。ご自身の身体状態と、我々の戦力を冷静に比較した結果、あの選択が“最善”だと……本気で、お考えだったのですか?」


固い表情のまま、理論と現実を突きつける。


続いて、柊湊が軽く肩をすくめながら口を開く。


「月先生さあ……。オレたち、何のためにいると思ってんの?」


その言葉に重ねるように、ミミが前に出てきた。


「にゃんで勝手にそんな危ないことしたのにゃ!? 心配したんだからにゃ!!」


両手を腰に当てて、怒りの混じった涙目で詰め寄る。


ラットンは口元のひげを撫でながら、声を低く落とした。


「ギルドと学園を支える立場にあるお方が、無計画に自己犠牲を選ぶなど——万死に値しますぞ!!」


カグラは月の横にしゃがみ込み、妖艶に微笑む。


「そういうの、重い女って言われるのよ? 月先生♡」


風がふわりと舞う中、シルフが肩を揺らす。


「言いたいことは山ほどあるけどね〜……。風が今日はやさしいからやめとくよ〜」


その隣でセレナが、手を胸に当てて静かに語りかける。


「月先生……。ご自身を、もっと大切になさってくださいね?」


グレンはただ、何も言わずにじっと見つめている。


「そ、その目はやめてください〜……」


思わずシーツに顔を半分隠す月。


ヒサメは壁にもたれかかりながら、半笑いのような表情で言う。


「命って、軽くないんですよ? ……まあ、“誰の命なら軽い”なんて、思ってませんよね〜?」


鬼影は、やれやれというように息を吐く。


「君を失ったらさ、俺らどれだけ大変になるか……想像、したことある?」


夜行は月を真っ直ぐに見据えた。


「……俺はな、まだお前を信用しきってたわけじゃなかった。けど、今は違う。だからこそ——裏切られたような気がして、腹が立った」


最後に、神崎泰蔵がゆっくりと前に出る。


「ほっほっほ……。若い頃のわしでも、あんな無茶はしなかったぞい。いや、したかもしれんがの。……でもな、月さん。独りで抱え込むのは、立派な教師とは言えんのじゃ」


一通り言われ終わったあと、保健室にはしばしの沈黙が訪れた。


月はしばらく何も言わず、それでもようやく唇を開く。


「…………皆さん、ごめんなさい……。次からは、ちゃんと相談して、頼ります……」


ようやく返された言葉に、全員がそれぞれ表情を緩める。

安堵と、ほんの少しの苦笑いが入り混じった空気の中、誰からともなく小さく頷いた。


説教は終わった——けれど、月に対する“監視強化”が決定されたのは、また別の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ