08.説教、そして反省会
保健室には、静寂が戻っていた。
けれど、そこに横たわる月の周囲には、異様なほどの“密度”があった。
ベッドの周囲を囲むようにして、学園の教員たちがずらりと立ち並んでいる。
月は、シーツを胸元まで引き上げたまま、どこか申し訳なさそうに目を伏せた。
「…………あの〜……ご迷惑を……おかけしました……」
その言葉が終わらぬうちに、誰かの怒声が飛ぶ。
「そういう問題じゃない!」
最初に口を開いたのは、橘葵だった。
きらりと眼鏡を光らせながら、一歩前へ出る。
「月先生……。ご自身の身体状態と、我々の戦力を冷静に比較した結果、あの選択が“最善”だと……本気で、お考えだったのですか?」
固い表情のまま、理論と現実を突きつける。
続いて、柊湊が軽く肩をすくめながら口を開く。
「月先生さあ……。オレたち、何のためにいると思ってんの?」
その言葉に重ねるように、ミミが前に出てきた。
「にゃんで勝手にそんな危ないことしたのにゃ!? 心配したんだからにゃ!!」
両手を腰に当てて、怒りの混じった涙目で詰め寄る。
ラットンは口元のひげを撫でながら、声を低く落とした。
「ギルドと学園を支える立場にあるお方が、無計画に自己犠牲を選ぶなど——万死に値しますぞ!!」
カグラは月の横にしゃがみ込み、妖艶に微笑む。
「そういうの、重い女って言われるのよ? 月先生♡」
風がふわりと舞う中、シルフが肩を揺らす。
「言いたいことは山ほどあるけどね〜……。風が今日はやさしいからやめとくよ〜」
その隣でセレナが、手を胸に当てて静かに語りかける。
「月先生……。ご自身を、もっと大切になさってくださいね?」
グレンはただ、何も言わずにじっと見つめている。
「そ、その目はやめてください〜……」
思わずシーツに顔を半分隠す月。
ヒサメは壁にもたれかかりながら、半笑いのような表情で言う。
「命って、軽くないんですよ? ……まあ、“誰の命なら軽い”なんて、思ってませんよね〜?」
鬼影は、やれやれというように息を吐く。
「君を失ったらさ、俺らどれだけ大変になるか……想像、したことある?」
夜行は月を真っ直ぐに見据えた。
「……俺はな、まだお前を信用しきってたわけじゃなかった。けど、今は違う。だからこそ——裏切られたような気がして、腹が立った」
最後に、神崎泰蔵がゆっくりと前に出る。
「ほっほっほ……。若い頃のわしでも、あんな無茶はしなかったぞい。いや、したかもしれんがの。……でもな、月さん。独りで抱え込むのは、立派な教師とは言えんのじゃ」
一通り言われ終わったあと、保健室にはしばしの沈黙が訪れた。
月はしばらく何も言わず、それでもようやく唇を開く。
「…………皆さん、ごめんなさい……。次からは、ちゃんと相談して、頼ります……」
ようやく返された言葉に、全員がそれぞれ表情を緩める。
安堵と、ほんの少しの苦笑いが入り混じった空気の中、誰からともなく小さく頷いた。
説教は終わった——けれど、月に対する“監視強化”が決定されたのは、また別の話である。




