07.包囲網、逃げ場なし
「みんなーっ!! 月が目を覚ましたにゃーっ!!」
朝の冷たい空気を引き裂くように、ミミの声が学園内に響き渡った。
尻尾をピンと立てたまま、彼女は一心不乱に保健室から駆け出していく。
「ほんとなのか?」「目覚めたって?」「ようやく……」
教員たちがそれぞれの教室や準備室から顔を出し、次々とミミのあとを追い始める。
一方そのころ――保健室の前に立ち尽くしていた橘は、扉の前でふと立ち止まっていた。
だが、手は伸びない。少しの間だけ静かに考え、そして呟く。
「……皆が来てからにしましょう。私一人で怒っても、意味がありませんからね」
数分も経たぬうちに、保健室の扉が乱暴に開かれる。
「月ちゃん!!」
「ようやく起きたのかのう……」
「君はどこまで我々を心配させるのかね、まったく!」
シルフ、セレナ、グレン、カグラ、ラットン、ヒサメ、柊、神崎、鬼影、夜行――
エルミナ学園の教員たちが、勢揃いで押し寄せた。
保健室の布団の中、目をうっすらと開いた月は、戸口に立ち尽くす彼らの姿を見て、そっと口を開いた。
「…………おはようございます………」
瞬間、室内の空気が凍りついたかのように、全員が静止する。
(………………これは…………マズい……)
空気を読んだ月が、ゆっくりと上体を起こしたかと思えば――
「……逃げねば……!」
布団から音もなく抜け出すと、そろりそろりと窓際へと向かう。
が。
「どこに逃げようとしてるのかな? 月ちゃん?」
ぴたり、と背後から声がかかる。振り向けば、そこには満面の笑みの鬼影。
その笑顔は、冷や汗が出るほど穏やかで――怖い。
「えっと……散歩とか……?」
「ダメに決まってるでしょ♪」
そのまま鬼影にがっちりとホールドされ、月は身動きが取れなくなる。
「っ、く……こうなったら!」
「おっと、姫君……いや、月殿。今、起きられたら……吾輩がベッドから転げ落ちて大怪我してしまう」
ラットンがどこからか現れ、月の膝の上に座り込んで動きを封じる。
「うぅぅ……これは……詰み……!」
「ほっほっほっ………。覚悟することじゃの、月さんや」
神崎が笑いながら目元を細める。
学園の空に、静かで騒がしい朝が訪れていた。




