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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第10章『終焉の茶会、眠れる姫君と紅き守護者』

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06.光の向こうに

暗闇だった。


まるで世界から色も音も消え失せたような、底知れぬ深淵。

その中心に、ただ一人、月は佇んでいた。


「………わたしは……何のためにいるのだろうか……」


誰もいない空間。

誰にも届かぬ声。

それでも月は、問いを繰り返していた。


天帝として。

聖女として。


人々の祈りを受け止め、導き、時に憎まれ、そして独りで歩き続けた。

その記憶のひとつひとつが、ぼんやりと浮かんでは消えていく。


――人々に囲まれ、讃えられた祭壇の上。

――命を救ったと泣き崩れられた病床の傍ら。

――けれど、最後に自分を火刑に処した聖堂の影。


「………なぜ………わたしがなにをしたの??」


胸の奥が、軋む。


自ら望んだ役割ではなかった。

でも、誰かがやらなければならないと思った。

だから、背負った。

だから、歩き続けた。


なのに―――


「会いたい……会えない……どうして?」


誰に?


「誰に会いたいの? 分からない……」


ただ、温かかった記憶。

ただ、優しかった時間。

ただ、隣にいてくれた存在。


「なぜ、わたしが浄化しないといけないの?」


答えが返ってこない問い。


「……だってそれが役割だから……」


自分の声が、自分にそう言い返した。


その瞬間―――


視界の奥に、ふわりと“光”が差し込んできた。


闇に慣れた瞳が思わず細められる。

光の中から、声が聞こえてきた。

何を言っているのかはわからない。

けれど、それはとても懐かしく、心を溶かすような響きだった。


月は、ゆっくりとその光へ手を伸ばした。


歩み寄るほどに、空間が淡く揺れる。

重たかった体が、ふわりと宙に浮かぶように軽くなっていく。


そして――


その光が、目の前いっぱいに広がった瞬間。


* * *


「……っ、月先生……っ!!」


涙声が響いた。


まぶたが開く。

世界に色が戻る。

視界に映ったのは、泣きそうな顔でこちらを覗き込むミミだった。


「………………おはようございます」


静かに、けれど確かに、月は口を開いた。


隣には、眼鏡の奥に安堵の色を浮かべた橘が立っていた。


すべてが、再び動き出していく。

月が目覚めた、その瞬間から。

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