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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事【改稿版】  作者: ポン吉
第2章『終焉の茶会、再建始動』
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05.木材と火花と強運

「まずは、屋根。風通しが良すぎると、寝てる間に風邪引くから」



月の指示が飛ぶと同時に、帝が小さなハンマーを握って立ち上がった。



「任せてほしいのだっ!」



勢いよく駆け出し、瓦礫の山へ飛び乗った瞬間──


ゴッ。


「あ」

「あ」

「……ああああああああっ!!」


足元の板がずるりと崩れ、帝の姿が見事に視界から消えた。


数秒の静寂。



「……だ、大丈夫なのだ……これは予定通りの落下なのだ……」



聞こえてくる声に、月は軽くため息をついた。



「とりあえず、打ち身だけで済んでる。運がいいね、帝」


「お姉ちゃんの祈りが届いたのだ……!」



その横で、カノンがぶすっとした顔で木材を運んでいた。



「運がいいって言っても、落ちてる時点で全然よくないと思うんだけど」


「でもケガしてないのだ」


「それを幸運って言い切るの、もう宗教じゃん……」



帝が得意げに胸を張る。



「事実、オレは幸運なのだっ!」


月は、カンカンと釘を打ちながら振り向きもしない。



「……建材、あと三本お願い」


「わ、わかったのだ!」



帝は再び瓦礫に向かって駆け出し、今度は足元に気をつけて板を一枚ずつ運びはじめた。

カノンが月にこっそり耳打ちする。



「……ちょっと甘やかしすぎじゃない?」


「けがしてないなら、それでいいよ」


「さすが“慈愛の聖女”……って言っていいのか、これ」


「作業終わったら、屋根に登ってもらうけど」


「罰じゃん」



作業は進み、日が少し傾きかけた頃。

クロマがうろうろと仮拠点の中を歩き回っていた。



「ねぇねぇ、月! 花火の材料ってどこに置く~?」


「……は?」



月が顔を上げる。


クロマは両手に、たくさんの火薬などを抱えていた。



「爆発するやつ、マスターが使っていいって!」


「マスター……?」



視線が自動的にマスターに向く。



「えへへっ 発破使えば、瓦礫の処理も楽になるかな~って!」


「その前に、ギルドごと消し飛ぶよ」



カノンが即ツッコミを入れる。


クロマは笑いながら材料をどこかへ運んでいった。

月はしばらく黙っていたが、小さく息を吐くと、



「……発火する前に、火花だけ見られるなら、それはそれでいいか」



と、釘をもう一本打ち込んだ。


そして夜。

小さな火種がパチパチと瞬き、石窯の横で火花が上がった。

ドン、とまではいかない、ごく控えめな音。


クロマが小さく手を叩いた。



「成功っ!」



帝は感動していた。



「すごいのだ……火花なのに爆発しなかったのだ……」


「そりゃ爆発してたら大惨事だよ」



カノンが冷たく言いながらも、その場に座り込んだ。


月は、ささやかに舞い上がった火花を見上げたまま、ぽつりと呟いた。



「次は……断熱。床からの冷えが強すぎる」


「……次も、やるんだね」


「うん。まだ寝返り打つと床板外れるから」


「現実的な理由だった!」



火花の光が、一瞬だけ夜を照らした。

笑いと、作業音と、微かな焦げ臭さ。


それは確かに、ここに“生”が戻ってきている証だった。

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