05.目覚めを待つ者たち
保健室に静けさが戻っていた。
空に舞い上がった赤き龍の残光が、まだ窓の外に微かに残っている。
その場にいた者たちは、しばしその余韻に囚われていた。
クロマは小さく息をつき、一歩だけ後ろに下がると、そっと月の寝顔を見つめた。
「月の状態がわかって、よかったんだよ。あとは、皆よろしくなんだよ」
どこか安心したような表情を浮かべ、けれど目には僅かな寂しさがにじんでいる。
その隣で、カノンが小さくつぶやく。
「姉さん……」
目の前の姉を前にして、それでも何もできないことがもどかしいように、拳を握り締める。
帝もまた、伏し目がちに呟いた。
「お姉ちゃん……」
その言葉には、心細さと悔しさが滲んでいた。
そんな三人の背後から、優しい声がかけられる。
「大丈夫。我輩たちが交代で面倒を見る。君たちは、安心して帰りなさい」
ラットンが柔らかく微笑みながら、語りかける。
続いて、ミミが両手を腰に当てて言う。
「にゃにゃっ、あたしに任せときなってば!」
橘は静かに眼鏡を押し上げながら一歩前へ。
「……ここは我々にお任せを。君たちが無理をしても、月先生は喜びません」
その言葉に、クロマはうなずいた。
「うん……。お願いなんだよ」
カノンと帝も続けて無言でうなずき、三人は扉の方へと向かっていく。
閉じた扉の先に、彼らの足音が小さく遠ざかっていった。
保健室には、教師たちだけが残された。
橘が、深いため息をついた。
「なぜ、相談してくれなかったのか……。我々が何のためにここにいるのか、月先生はわかっているはずなのに……」
その言葉に、セレナが眉をひそめながら口を開く。
「一人で抱え込むにも、ほどがあります。……本当に、困った方ですね」
その言葉に、グレンがゆっくりと小さくうなずく。
その無言の肯定が、むしろ重みを持って響いた。
そして――ラットンが、目を閉じて静かに言う。
「目覚めたら……説教だな」
保健室の空気が、少しだけ引き締まった。
それは、月を想う者たちが交わした無言の誓いのようだった。




