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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第10章『終焉の茶会、眠れる姫君と紅き守護者』

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03.目覚めぬ理由と、沈んだ村長

保健室に差し込む光は、冬のものにしてはどこか柔らかく、けれどその空気はどこか重かった。


クロマは、窓辺に立つ火龍のそばへと静かに歩み寄る。


その視線の先には、変わらず眠り続ける月の姿があった。

布団に包まれた小さな背中は、呼吸のたびにわずかに上下している。


「ねえ、火龍……どうして月は起きないんだよ?」


クロマの声は、保健室の静けさを破らないように、そっと響く。


火龍は動かず、ただその金の瞳だけがゆっくりと月を見下ろした。


やがて、静かに口を開く。


「姫君が“穢の浄化”を行ったからだ」


クロマは瞬きを一つして、火龍の顔を見上げる。


「それって……どういうことなんだよ……?」


しばらくの沈黙の後、火龍は低く、しかし確かな声音で答えた。


「力が足りず、自らの体内に穢をすべて取り込み、内側から浄化している。

 本来の姫君であれば、何の問題もなかった。だが……今の姫君には、耐えられるだけの力がなかった。それだけのことだ」


クロマは小さく唇を引き結び、そっと視線を落とした。


「……そっか。わかったんだよ」


その一言に、火龍は何も返さず、ただ月をもう一度見つめる。


そしてゆっくりと立ち上がると、背後にいた教師たちの視線を意にも介さず、外へと歩みを進める。


「我が姿を現した以上、しばらくは姫君への命令も届かぬだろう。

 ……古代龍すべてを敵に回すのは、愚かな選択だからな」


重々しいその言葉に、教師たちは思わず身じろぎする。


だが、火龍の背には敵意も怒気もない。ただ、圧倒的な“格”が存在していた。


火龍が歩きだしたとき、クロマがふと顔を上げて呼び止めた。


「あ、待って! 最後に一つ……今回の村長は、どっちだったんだよ?」


火龍は足を止め、わずかに振り返ることもなく、短く告げた。


「沈んだ」


その一言に、クロマは小さく肩をすくめ、呟く。


「そっちか〜……」


火龍の足音は、淡々としたまま保健室の扉へと向かう。


後に残された教師たちは、火龍とクロマの会話の意味を理解できず、ただ顔を見合わせるばかりだった。


場の空気に沈黙が降り、だがそれは――確かな余韻を残していた。

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