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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第9章『終焉の茶会、静寂を焦がす者』

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10.気配の向こうに

夜は深く、街は白く静まり返っていた。

冬の空気は本来であれば凛と澄み渡っているはずだったが、この夜ばかりは違っていた。


ギルドの裏手に続く小道。

そこに、黒い外套を羽織ったクロマが佇んでいた。

その視線は高く、夜空の果てを見上げている。


「……火龍ひりゅうが来てる」


ぽつりと漏れた言葉に、小道の先で風がわずかに揺れた。


しばしの静寂。


やがて、ギルドの窓から声が届く。

声の主は、ギルドの奥に根付く存在──土地神であるマスターだった。


「やっぱり……なんのために?」


クロマは肩をすくめる。

夜空を見つめたまま、答えを持たない者の仕草で。


「さあ?」


言葉少なに交わされる会話。

その背後で、ギルドの内部では、いくつかの影がざわめいた。

聞き慣れぬ“火龍”の名に、気配を敏感に察した者たちが顔を見合わせる。


「火龍……?」

「それって何かの前兆なのか?」


確かな答えを持つ者はいなかった。



---


街の遠景。

凍てつくような空気の中、夜空の彼方。


霞んだ輪郭が、ちらりと揺らいだ。

それはまるで、赤熱の鱗が陽炎のように滲む幻。


──すぐに、視界から消える。

それが何だったのかを断定するには、あまりに一瞬すぎた。

けれど、確かなことがひとつだけある。


何かが、こちらに向かっている。



---


保健室。

窓の外には、まだ夜の帳が降りていた。


月は相変わらず、意識を取り戻さず眠り続けている。

苦しげに眉をひそめた顔は、何かを拒むようにも、何かを耐えているようにも見える。


枕元には、交代で看病を続ける教員の一人が座っていた。


部屋の空気は静まり返っているが、その沈黙がどこか不安を煽った。


カーテンの隙間から差し込む夜の光。

そのわずかな光の中、月の胸がゆっくりと上下している。


それ以外には、何の変化もなかった。


……ただ、街を包む空気の中に確かに漂い始めていた。


異質な熱。

正体不明の気配。

そして、近づきつつある“何か”。

次章

第10章『終焉の茶会、眠れる姫君と紅き守護者』は、

8月16日 20時より投稿を開始します。


どうぞ、お楽しみに。

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