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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第9章『終焉の茶会、静寂を焦がす者』

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08.答えなき問い

保健室の扉が、勢いよく開かれた。


「姉さん……!」


「お姉ちゃん!!」


真っ先に駆け込んできたのは、カノンと帝。

連絡を受け、授業を抜けて飛び出してきたのだろう。

まだ息が上がったままの二人が、ベッドの上で静かに眠る月の姿に目を奪われる。


その顔色は青白く、額には汗が浮かんでいる。

時折、苦しげに眉を寄せるその様子は、今にも目を覚ましそうで、それでいて──まるで別の世界にいるような遠さもあった。


「姉さん……っ!」


カノンが名を呼びながら手を取ろうとするも、それよりも早く、橘が小さく首を振った。


「今は、そっとしておいた方がいいと思います。……体温はあるけれど、反応が弱くて」


カノンはその場で膝をつき、苦しげに唇を噛んだ。

帝も言葉を発することなく、ただ月の手を見つめていた。


職員室から呼ばれ、保健室に集まっていた教員たちも、沈痛な空気のなか沈黙を守っていた。

その中で、ふと夜行が言葉を発した。


「……“セレス”という名前に、心当たりはあるか?」


「セレス……?」


カノンが顔を上げ、戸惑いと困惑をにじませる。


「……知らない。聞いたこともない名前だよ」


続いて帝が、少しだけ眉を寄せながら答える。


「オレも、知らないのだ……お姉ちゃんの知り合いか?」


「先ほど、寝言のように呟いていた」と、夜行が続ける。

「明確な名前として聞き取れたのは、その“セレス”という言葉だけだった」


「……ただの寝言とは思えないよ」


カノンが絞り出すように言った。


帝も頷いた。


「お姉ちゃん、今朝も普通にしてたのだ。笑って、皆にも挨拶してた。……なのに、倒れるなんて……」


言葉の先を詰まらせた帝の横で、夜行はただ静かに目を伏せていた。


「まるで、内側から壊れたような──そんな気配だった」


橘がつぶやき、セレナが小さく息を呑む。


「魔力の異常……でしょうか?」


「それにしては、兆候がなさすぎる」と、ラットンが珍しく声を落とす。

「本人からの報告も、何もなかったのだろう?」


「……はい」


誰もが沈黙するなか、カノンが月の顔を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「ねえ、姉さん……なんで、何も言ってくれなかったの……」


その声に呼応するように、月がわずかに身じろぎする。


「……っ!」


一同が顔を上げる。


月の唇が微かに動いた。


しかし──そこから紡がれるはずの言葉は、空気の中で音になることはなかった。


再び、沈黙が保健室を支配する。


ただ、誰もが感じていた。


このままでは、何かが……確実に、崩れてしまう。



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