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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第9章『終焉の茶会、静寂を焦がす者』

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03.ただいまと言える場所

朝の職員室に、柔らかな足音が響く。


「ただいまです〜」


何事もなかったかのように、月が扉を開けて現れた。

変わらぬ笑顔。変わらぬ調子。そして両手には、整った包みの土産菓子の箱が三つ。


「ほんの気持ちです〜。職員室の皆さんでどうぞ〜」


軽やかに机の上に並べて、手をパンと一つ叩く。

箱の装飾には“リベルナ岬特産”の文字。潮の香りがふわりと漂った気がした。


その瞬間──


「……え?」


「えっ……?」


職員室の空気が、わずかに凍った。


柊が目を見開いて身を乗り出す。


「ちょっと待ってくださいよ月先生! “リフレッシュ”って言ってましたけど……一週間もいなかったんですよ!? 本当に温泉だけですか!?」


「明らかに行動パターンが違いましたよね……」


橘もすぐに追随する。冷静に装ってはいるが、眼鏡の奥の目はわずかに険しい。


だが、月はゆったりと首を傾げた。


「温泉とか、いろいろ〜。たまには羽を伸ばすのも大切ですから〜。皆さんもいかがです?」


涼しげな笑顔と、こてこての土産菓子。


「……これ……」


箱を開けた橘が眉をひそめた。


「どう見ても……海産土産ですよね? この“海老せんべい”って……温泉地っていうより、海沿いの港町の品では……?」


「海、綺麗でした〜♪」


満面の笑み。答えになっていない。が、それ以上は誰も突っ込めなかった。


「………………」


柊は軽く頭をかきながら、「逆に怖いな……」と小声で呟いた。

ラットンも黙ったまま、ヒゲを撫でている。


そして──


「よっ」


鬼影がひょこっと机の向こうから顔を出し、月の正面に座った。


「戻ってきたんだね、月ちゃん」


「戻ってきましたよ〜。なんですか? そんなに見つめられると、穴が空いちゃいます」


いつも通りの軽口。だが、鬼影の視線は鋭い。


「いや〜相変わらず可愛いなぁって」


「はいはい〜」


さらりとかわされ、笑みのままに応じる月。

だが鬼影はその裏側を探っていた。

艶鬼の特性──“心の温度”を感じ取る力。その力をもってしても、月の中にあるべき熱が、気配が、何も感じ取れない。


(……空っぽみたいな感覚……)

(これ、いつもと同じ……なのか?)


微笑みの奥にある沈黙。

その正体に誰も触れることはできなかった。


職員室には笑いと会話が戻っていく。

だが、そこに混じる静けさは、どこか冷たかった。

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