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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第9章『終焉の茶会、静寂を焦がす者』

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02.浄化任務、静寂の地にて

空は灰色に染まり、陽の気配すらなかった。

降りしきる雪が地を白く覆う中、その白さの下には、黒く淀んだ瘴気がじわじわと地表を蝕んでいた。

吹き抜ける風が、かすかに腐臭のような気配を運ぶ。

そこは、何者も近づかない辺境の地。音もなく、光も遠く、ただ沈黙だけが支配する。


一人の影が、雪を踏みしめて立っていた。

月。

厚手のローブをまとい、長靴の足元には魔力による結界が張られている。

吹きつける風が彼女の髪を揺らし、深い沈黙の中、ローブの裾がひらりと揺れる。


足元の土はひび割れ、黒いもやがじわりと揺れていた。

大地は眠っているようで、苦しんでいるようでもあった。

雪は絶え間なく降り続け、その冷たささえ、この地ではただの装飾のようだった。


月はその場に膝をついた。


右手を胸元に、左手を地へ。

瞼を閉じると、彼女の周囲にわずかな魔力の波紋が広がっていく。

言葉はない。

呪文も祈りも、誰にも向けられることはない。


ただ、静かに、地へと流れ込んでいく。

月の内から放たれた魔力は、まるで呼吸のように自然で、あまりにも穏やかだった。

穢れた地を拒まず、受け止め、優しく包み、融かし、溶かす。


黒い瘴気が、じわじわと後退していく。


土のひびが癒え、雪が静かに溶け始める。

枯れていた木々の枝先に、微かに緑が芽吹いた。

どこからか光が差し、空の灰色が少しずつ薄まっていく。


風がやんだ。

辺りは、いよいよ静かだった。

さっきまで支配していた重苦しい沈黙とは違う、ほんの少しだけ温度のある静けさ。


やがて、月は目を開けた。


立ち上がる。

ゆっくりと周囲を見渡し、変わった光景をひとつひとつ確かめるように、頷いた。


「……ふう……終わりました。まあ、こんなもんですね……」


小さな声が、白い息となって空に溶ける。

その視線の先には、今ようやく薄明るくなった空と、やわらかな陽光が広がっていた。

その下で、雪はまだ舞っていた。

もう、冷たさではなく、美しさだけを伴って。


月はしばし、その場に佇んでいた。


どれほどの時間が流れたのか。

それは彼女にとって重要ではなかった。


ふと、くるりと背を向ける。


また一歩、雪を踏む音。

それだけが、辺境の静寂に、最後の余韻として残された。


──その背中が語ることも、

  成したことも、

  この地に告げる者はいなかった。


ただ、浄められた土地がそこに残り、

風が、静かに吹き抜けていった。

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