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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第8章『終焉の茶会、艶鬼と月と招かれざる使者』

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10.呼び声は、黒よりも深く

冬の夜。

月の自宅である小さな平屋の一室に、月明かりが静かに差し込んでいた。


 


カーテンも閉めず、冷たい銀光に身を晒すようにして、月は机に向かっている。

手元には、ほかほかと湯気を立てる一杯のカップ。


 


「今年度もいろいろありましたけど……なんとか回っていますね〜」


 


月はふっと笑いながら、独り言のように呟いた。


 


「鬼影先生が対話術を得意としているとは………。やはり、艶鬼という種族が無せる技なんでしょうかねぇ〜……。

中等部二年生の授業から始めることに決まりましたが……んー………年明けからはまた書類作りと大変ですね!」


 


肩をすくめ、カップの中身をひと口すする。

部屋の中は暖かく、湯気と月光が交差する穏やかな空気に包まれていた。


 


――その瞬間。


 


月の机の上に、音もなく一通の黒い封筒が現れた。

気配も、前触れもなく。まるで“現れたことすら気付かせない”ように。


 


月はカップをそっと置き、静かにその封筒に手を伸ばす。


 


差出人の名は無い。

だが、月には誰からのものか分かっていた。


 


封を切る。中には、たった一枚の便箋と、たった一文。


 


「ここの浄化をしてこい。」


 


その文を見た瞬間、月の瞳に一瞬だけ翳りが差す。

だが、表情はすぐにいつもの穏やかな笑みに戻った。


 


「…………結構な穢溜まりのある場所なのに……簡単に言って……」


 


ため息混じりの言葉が、凍てつく冬の空気に吸い込まれていく。

そして、月は再びカップに手を伸ばす。



月光は静かに彼女を照らしていた。


 


***


 


場所は、アルセディア国の政治中枢に位置する都市の、どこかにある部屋。

装飾は一切なく、壁も床も天井も灰色の無機質な空間。

そこに一人、黒髪黒瞳の小柄な男が佇んでいた。


 


奈落ならく


 


その顔に浮かぶのは、どこか無邪気な笑み。

だが、その瞳には一切の温度がない。


 


「…………全く………己の仕事をサボりおって……。

何のために住まわせてやっているんだか……」


 


ぽつり、ぽつりと呟く声は、部屋の中で反響すらしない。


 


「聖教会から逃げれたなら……ちゃんとするべきだろうに」


 


ゆっくりと、彼は顔を上げた。


 


「…………なあ………月……いや……天帝てんてい……」


 


その一言が、まるで呪詛のように空間を満たした。


 


そして、その呼び声は、確かに届いていた。

深く、黒よりも濃い場所へ―

次章

第9章『終焉の茶会、静寂を焦がす者』は、

8月6日 20時より投稿を開始します。


※これまで毎日【8時・20時】の2回投稿で更新しておりましたが、次章(第9章)より、仕事の都合によりしばらくの間は【20時のみ】の1日1回更新となります。今後とも、夜の更新を楽しみにしていただければ幸いです。

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