08.新生活のススメ、狂気の館へようこそ
「というわけで、鬼影さんの本採用も決まりましたし〜、今日は皆さんにお見せしたいものがありまして!」
金曜日の午後、学園業務がひと段落したタイミングで、職員室に響き渡る月の声。
「……お見せしたいもの?」
橘が眉をひそめる。月はにっこりと笑ってうなずいた。
「はいっ。実は〜、先生方のための居住スペースをこっそり作ってたんですよ。今からご案内しますね〜」
「……案内、ですか?」
「はい! 今日は金曜日ですけど……世間では土曜日でお休みですよね? 午後はフリータイムにしちゃいましょう〜」
にこやかに宣言する月を見て、教師陣は顔を見合わせた。
「…………(不安)」
誰もが心の中で同じ疑念を抱えながらも、逆らう言葉を飲み込んだ。
場所は学園から徒歩で20〜25分。
郊外の小道を一行で進みながら、ミミがぽつり。
「……月ちゃん、ここって……ちょっと運動の距離じゃないにゃ」
「ちょうどいい距離ですよ〜。健康にもいいですし♪」
無邪気な笑みでそう返す月に、誰も反論できなかった。
やがて、一行は広大な草原のような場所に辿り着く。
月は立ち止まり、右手を掲げて宣言した。
「それでは、結界解除しますね〜。じゃじゃーん!! オープン!!」
その瞬間、空間がきらりと歪み、突如として九階建ての巨大建築物が姿を現した。
「……………………」
あまりの規模に、教師たちは一斉に言葉を失った。
【月が建てた“狂気のマンション”】
1階:総合スーパー+ドラッグストア
(野菜・薬・文房具・工具・洗剤・簡易薬品・コインランドリーなど)
2階:医療・リラクゼーション施設
(内科・耳鼻科・眼科・歯科・動物病院・リラクゼーションサロン)
3階:フィットネスジム(プール付)+風呂(サウナ付き)
4〜6階:単身者向け 1LDK(家賃:5万エン)
7〜9階:ファミリー向け 4LDK(家賃:10万エン)
【共通機能】
・居室の広さは魔力で自由調整可能
・外見よりも内部が広くなる魔法空間構造
・防音・耐震・耐火完備
・3階のエアロビクスが2階の医療スペースに一切響かない超絶設計
「え……ここ、DIYで……?」
橘の声は震えていた。
「……巨大建築……一人で……?」
グレンが言いかけた言葉は、驚愕のあまり途中で途切れる。
「これは……狂気の産物だよ……間違いなく……」
ラットンは白い頬を青ざめさせながらつぶやく。
「これを……完成させたのは……いつ?」
ヒサメの目が細く鋭くなる。
「全部、時間止めてちょっとずつやったので〜」
にこにこと笑う月の背後で、冷たい風が吹いたような気がした。
「……………時間停止って便利だなぁ!?」
教師一同の悲鳴が、空に虚しくこだました。




