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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第8章『終焉の茶会、艶鬼と月と招かれざる使者』

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07.聖女の心、届かぬ刃

「おっはよ〜、今日も一日よろしくね〜♪ まずは聖女ちゃんにご挨拶!」


 


「はい、鬼影さん、アウト。教員としての威厳、三秒で消滅してますよ〜」


 


「えぇ〜!? まだ何もしてないのに〜!?」


 


鬼影の試用期間が始まって数日。

担当科目は未定のままだが、鬼影は毎朝欠かさず月にちょっかいを出しては、見事なまでにスルーされていた。

そのたびに、カグラとラットン、そして夜行はピクリと眉を動かし――。


 


「……ラットン」


 


「言われずともッ!!」


 


ゴッ!


 


「ぐはっ!?……って、さすがに今のは不当暴力じゃない!?」


 


「威嚇だ。警告は受けたはずだろう」


 


「やれやれ〜、怖い人たちばっかりだよ〜。ねぇ、聖女ちゃん〜?」


 


「鬼影さん、それ以上喋ると“校則違反で減給”です」


 


「えぇぇ〜〜〜……」


 


鬼影の口撃こうげきに対して、月はいつも通りの笑顔でサラリとかわす。

その様子を観察しながら、夜行は内心、奇妙な感情を抱いていた。


 


(……本当に、効かないんだな……)


 


艶鬼の能力――人を魅了し、惑わせる力は、長い妖怪の歴史の中でも屈指の異能だ。

だが月は、最初から最後まで一貫して無風。どころか、鬼影の言動すら“対処対象”として淡々と処理していた。


 


(……やはり、あれは……)


 


その日も、夕方の職員室は静かだった。

月は一人、書類をまとめており、夜行はそれを横目に座っていた。


 


「……鬼影さんのお世話、大変ですね〜」


 


「……まあな。昔からの、知り合いだからな……」


 


「…………夜行先生」


 


「……なんだ」


 


「もう……いいんですか?」


 


「……何がだ」


 


「私の監視……。夜行先生が教員になったのも、私を監視するためですよね?」


 


夜行は息を飲んだ。


 


「……その通りだ。最初は、な」


 


月は、笑っていた。

だがその笑みはどこか遠く、冷たさすら感じさせるものだった。


 


「いいんですよ〜。気にしてませんから。殺気も……悪意ある視線も……凍るような目も……。聖教会にいた時から、なんか、慣れてるんです。……なんででしょうね〜」


 


「………………」


 


夜行の瞳が揺れた。


 


(危機管理能力が無いわけじゃない……。この子は――)


 


(あまりに慣れすぎた結果、何も感じ取れなくなってしまっている……)


 


無関心ではない。

無感覚なのだ。


 


幼い身に宿した役割と、日々浴び続けた圧力の中で、魂が感受することを拒否してしまったのだろう。


 


――この子は、壊れている。


 


その瞬間、職員室の扉が開き、カグラとミミが入ってきた。


 


「月、そろそろギルドに戻って夕食準備するにゃー?」


 


「はーい、今いきまーす♪」


 


明るい声と共に、月は席を立つ。

先ほどの会話はなかったかのように。


 


夜行は、その後ろ姿を見送りながら、強く思った。


 


(……この子は、守らねばならない)


 


今度は、監視ではなく――守る者として。

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