05.艶鬼、就職活動
エルミナ学園の仮設会議室には、緊張というよりは妙な空気が流れていた。
中央に設けられた机の正面には、月が真剣な顔で腰かけている。その背後には、控えとして夜行とカグラが並び、緊張というよりは警戒に近い視線を向けていた。
「それでは、面接を始めましょうか」
月の柔らかな声に、面接を受ける側──赤髪赤眼の青年、鬼影がひらりと手を上げて応じる。
「よろしくお願いしまーす。いやあ〜、ちゃんとした面接なんて久しぶりだな〜。緊張しちゃうな〜」
彼はあくまで軽い口調で、椅子に深く腰かける。対するラットンは、鬼影の隣でぴたりと構えながら、いつでも飛びかかれるような姿勢で睨みを利かせていた。
「我輩は非常時には噛みつくからな。覚悟しておけよ」
「こわっ! でもそういうの嫌いじゃないな〜。お手柔らかに頼むよ、ラットンくん」
「くん付けするな!!」
カグラが眉をひそめる中、月は笑顔を崩さず、所定の用紙に目を落とす。
「では、志望動機をお聞かせください」
鬼影は椅子の背にもたれたまま、にやりと笑った。
「なんか面白そうだし〜。あと、聖女ちゃんが可愛かったから〜」
「ふざけてるわね……」
カグラが低く呟き、すかさず夜行が睨みを効かせる。
「真面目にやれ」
「はいはい。じゃあ真面目モードいきますよ〜。こういう学校って滅多にないでしょ? 色んな種族が一緒に学べるなんて、なかなか刺激的だと思ったんだよね。自分でも何か力になれたらって、そう思ったんだ」
一瞬だけ、会議室に静けさが戻る。
月は軽く頷きながら、質問を続ける。
「ありがとうございます。では、これまでの経歴について教えてください」
「まあ、色々なところで講演とか教育補佐とかはしてきたよ〜。艶鬼だけどさ、子どもにはちゃんと優しいし、礼儀も教えるよ? エッチな話とかは大人限定って、そこはきっちり分けてるから」
「子どもへの対応は重要視しています。授業中の不適切な言動は厳禁ですので」
「もちろん! そこはTPOってやつ、ちゃんと弁えてるからさ。心配ご無用!」
カグラはじと目で睨み続けていたが、鬼影はまるで気にしていない様子だった。
やがて、面接の最終段階に入る。
月は一拍置いてから口を開いた。
「では……すべてを踏まえた結果、試用期間として採用しましょう。いつから来られますか?」
「今からでもいいよ〜」
「今からと言っても、何の授業をお願いするかはまだ決まっておらず……」
「まあ、それは後でいいんだけど……ひとつ、いいかな?」
「なんですか?」
「俺、こっちに住むとこないんだよね。どっかいいとこある? あ、なんだったら聖女ちゃんと同じベッドでも——」
「ラットン、やれ」
「任された!!」
がぶっ。
「おっとぉ〜!? こわいこわい! 冗談冗談〜っ!」
ラットンが鬼影の腕に飛びつく中、月は微妙な笑顔で応じた。
「………………………………しばらくはギルドの宿泊スペースを貸し出しますね」
「助かるよ〜、さっすが聖女ちゃん!」
ようやくラットンが牙を引くと、鬼影は赤くなった腕をさすりながらへらりと笑った。
そして──
「でも、そのうち仮住まいじゃ不便になりますからね……建てましょう、鬼影さんの家。DIYで!」
その一言に、室内の空気が凍った。
教師陣「………………え?」
「材料はこの前、裏山の魔物さんから貰ったのが余ってますし♪」
教師陣「………嫌な予感がする……」
鬼影は楽しそうに笑っていたが、教師たちは誰一人笑っていなかった。




