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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第8章『終焉の茶会、艶鬼と月と招かれざる使者』

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03.求人戦線、全滅異常アラート

職員室の朝は、いつになく沈鬱だった。


 


一週間──

教師たちはそれぞれのツテを頼り、あらゆる手段を尽くして教員のスカウトに奔走していた。

結果、返ってきたのは、氷のように冷たい「不採用」の現実だけだった。


 


「他のげっ歯類たちにはなしてみたけど………無理だったよ……」


 


ラットンが項垂れたまま、机に突っ伏していた。


 


「わたくしも……どなたも首を縦には振ってくれませんでした……」


 


セレナが悲しげに羽をふるわせる。


 


「そもそも勤務形態が……アレでは……な?」


 


シルフが窓辺で浮遊しながら肩をすくめる。


 


「……あたしの所もダメだったわ……もう、笑うしかないわね……」


 


カグラが苦笑いを浮かべたが、笑みの奥に疲労と諦念がにじむ。


 


「それはそう……」


 


ヒサメが呟く。


 


「オレもっす……魔術師仲間に頼んだけど“死ぬわ”って言われました……」


 


柊は書類の山の間から顔を出し、ため息をついた。


 


「勤務形態を説明した瞬間、皆さん背中を向けて帰って行きました……」


 


橘は手元の記録帳を閉じ、メガネを外して目元を押さえる。


 


職員室が静まり返る。


 


「………………」


 


「………………」


 


「………………」


 


「………………」


 


そして。


 


「求人は……難しいのぉ……」


 


神崎が湯呑を手に、呑気な口調で呟いた。


 


「いや、そもそも求人を許可しなければ……!」


 


教師たちが、一斉に神崎を睨む。


 


「お茶がうまいわい(ズズー)」


 


飲むな。


 


教師陣の視線は、ますます鋭さを増していく。


 


その時だった。


 


「…………俺の知り合いが………“面白そう”と言って返事してきたんだが………」


 


夜行の低い声が、部屋の空気を一変させた。


 


「え?!あの勤務形態おしえても?!……そいつアタオカか?」


 


「……………いや………癖が強くて………」


 


夜行の目が伏せられる。


 


「夜行の知り合いでしょう……………え?……まさか!?」


 


カグラが、わずかに身を乗り出す。


 


「待つんだ。総大将!!まさかヤツではあるまいな?!」


 


ラットンの顔から血の気が引いていた。


 


「????ヤツ??」


 


ヒサメが首を傾げる。


 


「……………明日………来る」


 


夜行がぽつりと告げた。


 


「ダメダメダメダメ!!アイツは絶対ダメよ!!」


 


カグラの叫びが木霊する。


 


「月先生がストレスマッハで倒れてしまうよ!!」


 


ラットンも続く。


 


「ふい………」


 


夜行の口元に、わずかに笑みのようなものが浮かんだ──が、すぐに掻き消えた。


 


そして──。


 


「おはようございまーーす!」


 


扉の向こうから、ひときわ明るい声が響いた。


 


「あ、見てくださいよ〜。今日、ギルドの裏山で美味しい果物ができてたんです。裏山の魔物さん、無言で分けてくれました〜。瑞々しくておいしいですよ〜。皆さんも食べます??」


 


そう言って笑顔を浮かべながら、月が大きな籠を抱えて現れる。


 


キラキラと朝日に照らされた果物。

それ以上に輝く、いつもの笑顔。


 


教師たちは、誰一人ツッコむことができなかった。


 


言葉を失い、ただ──


 


沈黙で返した。

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