03.求人戦線、全滅異常アラート
職員室の朝は、いつになく沈鬱だった。
一週間──
教師たちはそれぞれのツテを頼り、あらゆる手段を尽くして教員のスカウトに奔走していた。
結果、返ってきたのは、氷のように冷たい「不採用」の現実だけだった。
「他のげっ歯類たちにはなしてみたけど………無理だったよ……」
ラットンが項垂れたまま、机に突っ伏していた。
「わたくしも……どなたも首を縦には振ってくれませんでした……」
セレナが悲しげに羽をふるわせる。
「そもそも勤務形態が……アレでは……な?」
シルフが窓辺で浮遊しながら肩をすくめる。
「……あたしの所もダメだったわ……もう、笑うしかないわね……」
カグラが苦笑いを浮かべたが、笑みの奥に疲労と諦念がにじむ。
「それはそう……」
ヒサメが呟く。
「オレもっす……魔術師仲間に頼んだけど“死ぬわ”って言われました……」
柊は書類の山の間から顔を出し、ため息をついた。
「勤務形態を説明した瞬間、皆さん背中を向けて帰って行きました……」
橘は手元の記録帳を閉じ、メガネを外して目元を押さえる。
職員室が静まり返る。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
そして。
「求人は……難しいのぉ……」
神崎が湯呑を手に、呑気な口調で呟いた。
「いや、そもそも求人を許可しなければ……!」
教師たちが、一斉に神崎を睨む。
「お茶がうまいわい(ズズー)」
飲むな。
教師陣の視線は、ますます鋭さを増していく。
その時だった。
「…………俺の知り合いが………“面白そう”と言って返事してきたんだが………」
夜行の低い声が、部屋の空気を一変させた。
「え?!あの勤務形態おしえても?!……そいつアタオカか?」
「……………いや………癖が強くて………」
夜行の目が伏せられる。
「夜行の知り合いでしょう……………え?……まさか!?」
カグラが、わずかに身を乗り出す。
「待つんだ。総大将!!まさかヤツではあるまいな?!」
ラットンの顔から血の気が引いていた。
「????ヤツ??」
ヒサメが首を傾げる。
「……………明日………来る」
夜行がぽつりと告げた。
「ダメダメダメダメ!!アイツは絶対ダメよ!!」
カグラの叫びが木霊する。
「月先生がストレスマッハで倒れてしまうよ!!」
ラットンも続く。
「ふい………」
夜行の口元に、わずかに笑みのようなものが浮かんだ──が、すぐに掻き消えた。
そして──。
「おはようございまーーす!」
扉の向こうから、ひときわ明るい声が響いた。
「あ、見てくださいよ〜。今日、ギルドの裏山で美味しい果物ができてたんです。裏山の魔物さん、無言で分けてくれました〜。瑞々しくておいしいですよ〜。皆さんも食べます??」
そう言って笑顔を浮かべながら、月が大きな籠を抱えて現れる。
キラキラと朝日に照らされた果物。
それ以上に輝く、いつもの笑顔。
教師たちは、誰一人ツッコむことができなかった。
言葉を失い、ただ──
沈黙で返した。




