表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第8章『終焉の茶会、艶鬼と月と招かれざる使者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/161

02.過労と自覚なき笑顔と

職員室に重苦しい空気が漂っていた。


 


誰もが、さきほど見せられた“求人広告”の内容を、未だ脳裏から振り払えずにいる。


 


「……あれを……“載せた”んですよね……」


 


柊が、天を仰ぎながら呟いた。


 


「現実味がなさすぎて……ある意味で夢の世界ですね……」


 


橘の声にも、もはや感情の起伏はない。感情というより、虚無に近いものが宿っている。


 


「笑ってる場合じゃにゃいってば!」


 


ミミが、机をばんばんと叩く。耳がぴくぴくと震え、怒りのあまり尻尾まで膨れていた。


 


「でも、たしかに……誰か入ってくれないと……」


 


セレナがぽつりと呟くと、誰もがその言葉の重みに頷いた。


 


「このままでは崩壊するぞ、この学園が」


 


夜行の言葉が、誰よりも静かで、誰よりも重かった。


 


教師陣は、次第に目を見交わし始める。


 


「……ツテを使うしかないな」


 


「うちの種族の中で、教育に関心ある奴がいれば……」


 


「ダメ元で声かけるしかないわね」


 


やがて、意思は一つにまとまった。


 


「このままじゃ、月が──」


 


その時だった。


 


「おつかれさまでーす」


 


ぴょこ、と扉から顔を出したのは、まさにその月本人だった。


 


「あ、ギルドの食堂準備しないと。というわけで、私帰りまーす」


 


笑顔。明るく、軽やかで、屈託のない笑み。


 


しかし、職員室の空気は一気に凍りついた。


 


「………………」


 


誰も返事をしない。

ただ、去っていく月の背中を見送るだけだった。


 


「……そういえば」


 


カグラが呟く。


 


「あの人って……毎日、どんなスケジュールで動いてるの?」


 


全員が一瞬黙り、そして考え始めた。


 



---


 


朝。

ギルドで、教師たちが朝食を取る時にはもう月が厨房に立っていた。

時間にして、朝6時、いやもっと早いかもしれない。


 



---


 


8時。

学園の始業と同時に、月は校内を歩き回っている。

事務仕事。授業補助。備品の確認。

何気ない一言で、教師たちの進行を助けていた。


 



---


 


昼。

給食準備の手伝い。人手が足りないという声に、自然と背を押していたのも月だった。


 



---


 


午後。

事務作業に戻りつつも、ギルドの雑務にも手を伸ばしていた。

書類の山。問い合わせの応対。教材の輸送依頼──。


 



---


 


夕方から夜。

ギルドの厨房に戻り、今度は晩ごはんの準備。

夜遅くまで、笑顔を浮かべながら、来客を迎えていた。


 



---


 


「………………」


 


教師たちの顔から、さっと血の気が引いた。


 


「ふう……………………」


 


柊が深く息を吐いた。

全員が、同じタイミングで息を吐いた。

そして──。


 


「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!!!!」


 


全員が総立ちになった。


 


「もう完全にアウトですこれ!!!」

「どこをどう見ても異常です!!!」

「このままじゃ、倒れちゃうって!!」

「というか、壊れる。魂レベルで」


 


叫びが飛び交う中、シルフがひょこりと浮かび上がった。


 


「安心しろ、魂は壊れてる」


 


静かな口調だった。


 


一瞬の沈黙。


 


「それなら安心……ってバカ野郎!!」


 


ヒサメの一喝が職員室に響いた。


 


笑いが少しだけ起こる。けれど、それもすぐに引き締まる。


 


「……本格的に動くぞ。ツテ、全開放でな」


 


夜行の言葉に、誰もが頷いた。


 


こうして、月を救うための第一歩が──ようやく踏み出された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ