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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第8章『終焉の茶会、艶鬼と月と招かれざる使者』

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01.求人、倫理、そして爆弾発言

朝の職員室は、早朝の陽射しが差し込む中、静かな活気に満ちていた。

窓の外ではセミが鳴き、夏の気配がじんわりと空気に溶け込んでいる。


 


そんな中、一人の女性が黙々と業務に取り組んでいた。


 


「ふむふむ……保健室に置く応急処置セットは……三点セットで……。あ、でもこの包帯、やっぱりこっちの素材の方が……」


 


机いっぱいに広がる書類。整理された教材の山。

月は、教員全員分の備品確認から、学園便りの版下作成まで、一人でこなしていた。


 


そんな様子を、離れた机からそっと見守っていたのは数名の教師陣だった。


 


「……やっぱりさ、教師……増やさないとまずいって」


 


ぼそっと呟いた柊の言葉に、ヒサメが軽く目を細める。


 


「というか、今の状態が異常……。そもそも月が、倒れたのを忘れてないよね?」


 


「仮に三年制を維持するにしても、学年ごとの専任は必要です。今のままでは崩壊します」


 


橘の冷静な判断に、一同が沈黙する。

その視線の先で、月は楽しげに教材の並べ替えをしていた。


 


「……もう、求人出そう」


 


「それしかないだろうな」


 


そんな結論に至るまでに、時間はかからなかった。

やがて、全員が月に向き直る。


 


「月」


 


「はい?」


 


「その……教師、増やした方がいいと思うんだ。求人を出すって話で──」


 


「出してますよ〜?」


 


あまりにあっさりと返されたその一言に、空気が凍った。


 


「……え?」


 


「求人。ハイワークに出してます。二週間前から」


 


「ちょっ……え!? えええ!? 内容は!? 何て書いたの!?」


 


橘が驚きに声を裏返らせる中、月は人差し指をぴんと立てた。


 


「月月火水木金金。ニコニコブラック学校ですけど、みんな優しい明るい職場ですって♪

……ちゃんと学園長に許可は取りましたよ〜」


 


「…………嘘はいかんからの……嘘は……」


 


神崎が遠い目をして呟いた瞬間、教員陣が爆発した。


 


「違う違う違う違う違う違う!!」


 


「そんなの誰が来るかーっ!!」


 


「倫理観! 倫理観どこ行った!?」


 


「訴えられるわよ!!」


 


それでも、月は動じない。


 


「でも……嘘書いたら訴えられた時こちらが負けますから」


 


「いや……それは正論だけども!?」


 


「……まあ、訴えようものなら全力でそいつを消しますけど?」


 


「待て待て待て待て待てええええ!!」


 


「ほんとにどこ行ったんだ倫理!!」


 


すると月は、無邪気な笑みで答えた。


 


「聖女をやめた時に、捨てました!」


 


しれっと言い放ったその言葉に、教師たちは絶句する。


 


「……拾ってこい!!」


 


橘の叫びに、月はきょとんとしたままにこりと笑う。


 


「今さら拾っても汚れてますよ〜?」


 


職員室に走る沈黙と脱力。


 


──こうして、“聖女”の肩書を捨てた月と、その現実を受け入れざるを得ない教師たちによる、前途多難な採用活動が幕を開けた。

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