10.その笑顔を守るために
朝の職員室に、いつもの明るい声が響く。
「よーし! 仕事を休んでた分の遅れを取り戻すぞー!!
…………とりあえず時間を止めて……」
元気いっぱいに宣言するのは、他でもない月だった。
「時間を止めるっていう発想をまずやめようか?!」
「そうそう! まずは人間的な努力から始めようよ!」
「時止めとか、そういうの、授業で禁止にしたい……」
一斉にツッコミを入れる教師たち。
月はぽかんとした顔をしながら、
「えーーー??」
と、子どもが拗ねるような声を出す。
「えーー? じゃない!」
「……………はーい」
月は、ちょっと頬を膨らませながらも素直に頷き、屈託のない笑顔を見せた。
その笑顔は、いつもと同じ。
けれど、教師たちの心には、いつもと違う感情が静かに芽生えていた。
(どうしたら……この笑顔を守れるだろうか)
それぞれの胸に去来する思いは言葉にならず、ただ静かに時間だけが流れていく。
そして、いつも通りに資料を抱え、
いつも通りに賑やかに振る舞う月の背中を、
教師たちは黙って見送った。
あの笑顔を、絶対に……失わせたくないと思いながら。
次章
第8章『終焉の茶会、艶鬼と月と招かれざる使者』
は、
7月31日 朝8時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




