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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第7章『終焉の茶会、笑顔の裏の断罪記録』

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09.あったことにする、なかったことにする

静かな光が差し込む保健室のベッド。

その上で、月がゆっくりと目を開いた。


 


「……うん……?」


 


視界に映ったのは、心配そうに覗き込むカノンと帝の顔だった。


 


「姉さん! 起きた!」


 


「お姉ちゃん。起きたのだ」


 


二人の声に、月は瞬きを繰り返しながら小さく首をかしげる。


 


「……?? ふふ。なあに? 二人とも泣きそうな顔して………。

わたしは……なんで保健室で寝てるの?」


 


カノンが一瞬だけ黙りこみ、すぐにいつもの調子で口を開いた。


 


「…………闘技場での一件のあと、………廊下で足を滑らせてそのまま頭ぶつけたんだよ。

姉さん……運悪いから」


 


「………………そう……なのだ」


 


帝も、少しぎこちなく肯定する。


 


「そんなことある?」


 


「ある」


 


「あるのだ」


 


「……あるのか………」


 


月はしばらく黙っていたが、やがて穏やかに笑った。


 


「そっか……気をつけないとね。ありがとう、ふたりとも」


 


その笑顔に、カノンも帝もそれ以上なにも言えず、ただ小さくうなずいた。


 



---


 


保健室の前。

扉のすぐそばにいたラットンは、三人の会話を耳にしていた。


 


「ふむ……。なるほど、そういうことになっているのかね」


 


彼は顎をさすりながら、静かに背を向ける。


 


「では、吾輩たちも“そういうこと”にしておこう」


 


そう呟き、ラットンは他の教師たちのもとへ向かって歩き出した。


 



---


 


教師たちの控え室。


 


ラットンの報告を受けた教員たちは、それぞれの表情を浮かべながらも、深くうなずいた。


 


「……つまり、事故だったということに……」


 


「うむ、それで……いいんじゃないかしら」


 


「そういうことにしよう。本人が知らないなら……その方がいい」


 


誰もが言葉を選びながらも、最後には黙って同意する。


 


月が“倒れた理由”は、事故。


 


そう――あったことにする。なかったことにする。


 


その選択が、教員たちの中で静かに定まった。

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