02. 仮の棲み処
「ここ、使えそうだよ」
月が指差したのは、焦土の外れに積まれた廃材の山だった。
半分炭と化した梁、ひしゃげた鉄骨、割れたガラス……そのどれもが「再利用不可」と言われてもおかしくない代物ばかり。
「姉さん……まさか、それで寝床作るつもり?」
カノンが眉を寄せる。帝はというと、すでに口を閉ざし、月の動向を注視していた。
月は答えなかった。代わりに、袖をまくって屈むと、そっと木片の断面に指を当てる。
「焼け跡も、ちゃんと洗えば使える。壊れた道具も、直せばまた動く」
その声には、何の迷いもなかった。
* * *
廃材を選び、釘を抜き、割れを整える。
道具らしい道具は何もない。けれど、月の手は止まらなかった。聖教会では許されなかった「何かを作る」行為が、今、自由の中で形を持ちはじめている。
「……姉さん、建築士だったっけ?」
カノンがぽつりと呟く。返事はない。
代わりに、崩れた木材が一枚、月の手で組まれて立ち上がった。
「才能のベクトルが……ズレてるのだ……」
帝が静かに呟いた。
* * *
数時間後。
焦土の中央に、信じられないほど整った仮設小屋が完成していた。
小屋というには広すぎて、もはや簡易宿泊所と呼んでも差し支えない。骨組みは整然とし、入口には即席の扉まで備わっている。
「え……うそでしょ……?」
クロマがぽかんと口を開けたまま、入り口の柱を叩いてみる。
「めっちゃ頑丈……。姉さんって、あれだよね……DIYの神?」
マスターはそれを見て、無邪気に拍手した。
「わーっ、すごい! これなら宿泊費取れるねっ」
その言葉に、帝がぽつりと呟く。
「マスターは、黙っていた方が安全なのだ……」
* * *
日が暮れる頃。
仮設拠点の中には、使い古された寝具が並べられ、かろうじて温もりが残る火鉢も据えられていた。
月は、小さな布切れで埃を拭いながら、小さく息をついた。
「……ここなら、とりあえず眠れる」
その声に、カノンと帝もそっと腰を下ろす。
「……姉さん、ほんとすごいね」
「お姉ちゃんの建築スキル、ちょっとおかしいのだ……」
二人がそう呟いたとき、遠くで腹の鳴る音がした。
静かに、確実に、次の問題が迫っていた。