07.語られる真実
静まり返った職員室に、重たい空気が満ちていた。
カノンが去った扉の方をしばらく見つめていた帝が、やがて教師たちに向き直る。
その顔に浮かんでいるのは、冗談ひとつない、年齢に見合わぬほどの真剣な表情だった。
「……オレは…………昔……前世の記憶があるのだ……。
それも……神時代の記憶が……。
その時代、オレは……お姉ちゃんの弟だったのだ……」
誰も言葉を挟まない。
教師たちはただ静かに、帝の口から語られる“何か”を待っていた。
帝は一度だけ深く息を吐いて、話し始めた。
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「お姉ちゃんは、神だった……。
天界に存在していた、強大な力を持つ存在。
感情が薄くて、何を考えているのかわからない……
いつも微笑んでいるだけだった……」
帝の目が、少しだけ懐かしさを帯びる。
だが、それもすぐに翳りに変わった。
「ある日、神々に騙されて殺された……
その後、人間として転生したのだ。
本来なら、神としての力はそこで失われるはずだった……
でも、なぜか“天帝の核”と呼ばれる力を保ったまま転生してしまった」
「その異常な力に気づいたのが……聖教会だった。
あそこは、お姉ちゃんを“聖女”と崇めながら、実際には逃げられないように拘束していたんだ。
首に……特殊なチョーカーをつけてな」
帝の手が、無意識に首元をなぞる。
「教会の連中は、お姉ちゃんの正体なんて知らない。
けれど、“異常な力を持つ少女”として利用することにしたのだ……」
教師たちは、息を呑むような仕草を見せた。
その正体が、ここまで非常識なものであるとは──。
「お前たちも聞いたことがあるだろう? “最悪の魔女”という伝説を……。
あれは……お姉ちゃんだ」
一瞬、誰かが小さく息を呑む音がした。
「混乱の時代に、その力が疎まれ、責任を押し付けられ、断罪され、処刑されて……
そしてまた転生。
それを何度も繰り返した結果……魂は……もう限界が近いのだ……」
帝の声に、怒りも悲しみもなかった。
ただ淡々と、事実を紡いでいく。
「魂がまだ壊れていないのは、“天帝の核”が中にあるから……。
でも、今回倒れたのは“滅帝惡”を使ったせいだ。
あれは……本来、神の御業……
今の身体と魂では、完全には耐えられない。それだけのこと……」
「たぶん、少し眠れば身体は回復するだろう。
だけど……魂の問題は、ずっと残り続ける……」
そこまで語って、帝は口を閉じた。
職員室には、ただ沈黙だけが残った。
誰も言葉を発することができなかった。
目の前にいた“少女”は──
人の姿をした、“何か”だった。




