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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第7章『終焉の茶会、笑顔の裏の断罪記録』

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06.語られる記憶

春の陽がやわらかに差し込む職員室には、重く沈んだ空気が漂っていた。


 


月が突然倒れた――

その報告を受けた教師陣は、ただの疲労ではない何かを直感し、彼女をよく知る存在を呼び寄せた。


 


扉の前に立つ二人の姿は対照的だった。


 


柔らかな表情のカノンと、張り詰めた面持ちの帝。


 


教師の一人が、意を決したように口を開く。


 


「……というわけで、月さんが突然倒れて……。

保健室で横になってはいますが、無理が祟ったのでしょうか……」


 


報告は簡潔で、けれど確かに不安を滲ませていた。


 


帝はすぐに口を開きかけたが、ふと隣のカノンに視線を向け、そのまま何も言えなくなる。


 


その視線の意味を察したカノンは、わずかに眉をひそめ、ため息を吐いた。


 


「まーたボクには聞かせたくないこと?

……いいよ。姉さんのところ、行ってくるから。先生たちに説明、よろしくね」


 


そう言い残して、カノンは踵を返し、静かに職員室を出ていった。


 


閉じた扉の向こうをしばらく見つめたまま、帝はぽつりと、誰に言うともなくつぶやいた。


 


「……お礼は……言わないのだ……」


 


その声には、どこか拗ねたような、けれど哀しみにも似た響きがあった。


 


やがて、帝は教師たちの方に向き直る。


 


彼の目には、確固たる意志の色が宿っていた。


 


「オレは…………昔……前世の記憶があるのだ……。

それも……神時代の記憶が……」


 


教師たちが一斉に視線を向ける中、帝はゆっくりと言葉を紡いでいく。


 


「神時代……オレはお姉ちゃんの弟だったのだ……。

名前も、姿も、今とは違ったが……その時の記憶が……今も残っているのだ」


 


語られる言葉は淡々としていたが、そこに込められた重みは、教師たちの胸にずしりとのしかかった。


 


その日、職員室には沈黙が流れた。


 


そして――“月”という存在の輪郭が、少しずつ、けれど確かに異質なものとして浮かび上がっていくのだった。

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