05.保健室の謝罪と、月の異変
保健室の静けさを破るように、ゆっくりと瞼が開いた。
「あ……」
ベッドに横たわっていた初等部1年A組の生徒が、ぼんやりと天井を見上げ、現実の感覚を取り戻す。
その視線が横にずれる。
「おはようございます〜。気分はどうですか〜?」
月が、いつものにこやかな笑顔で、生徒の顔を覗き込んでいた。
「…………!!」
生徒の顔色が見る間に変わる。
その声に反応して、周囲のベッドでも次々に生徒たちが目を覚ました。
そして、誰かが叫ぶ。
「申し訳ございませんでした!!!!!」
次の瞬間、全員がベッドから転げ落ちるように飛び降り、床に手を突いた。
まさかの土下座一斉展開だった。
「えーーー……なんかその反応、傷つきます!ねえ、先生方?」
「いや、分かるだろ……」
柊がやや引きつった顔で、橘と視線を交わす。
ヒサメも微妙な顔つきで腕を組んでいる。
月が首をかしげながら問いかける。
「ところで……反省しましたか?」
「しました!! しました!!」
生徒たちはそろって立ち上がり、ピシッと姿勢を正す。
「人間の先生に教えてもらうって、平和! すてき! 本当にうれしいです!!」
「なーんか腑に落ちませんけど……まあ、反省してるならいいですよ。気をつけてくださいね〜」
月はにっこりと笑い、穏やかに頷く。
その笑顔に、生徒たちはさらに緊張しながらも、元気よく返事を返した。
「はいっっっ!!!」
――そして、退室していく生徒たちの足取りは、どこか軽やかで、そしてとてもまっすぐだった。
保健室に残された教師陣は、しばし沈黙する。
「これで大丈夫ですね!」
月は満足げに言って、胸を張った。
「いや、どう考えても恐怖による圧政……」
橘がぽつりと呟くと、柊も頭をかきながら頷いた。
「まあ、いいじゃないですか〜」
月は軽く流すように笑いながら、その場から立ち上がろうとした――その瞬間。
「っ……」
身体がふらりと揺れる。
「……あら……?」
月の声は掠れて、そして崩れ落ちるように、その身体は床へと傾いだ。
「月さん!!」
教師陣が駆け寄る。
床に倒れ込んだ月の顔は青白く、その額にはうっすらと汗が滲んでいた。
保健室の静寂が、再び重く、張り詰めた空気に包まれた。




