04.滅帝惡の裁き
反発していた初等部一年生たちを前に、月はにこにこしながら首を傾げた。
「もう終わりですか〜??」
攻撃はすべて通らず、生徒たちは疲弊しきっていた。
だが、最後の意地とばかりに、何人かが再度魔力を練る。
「はっ……まだ……!」
「くそっ……あいつ……!」
だが、やはり攻撃は届かない。
まるで空気に弾かれるように、すべてが虚空に消える。
月は、やや残念そうに目を細めた。
「あ………三分経ちましたね。………では………こちらから行きますね?」
次の瞬間、彼女の手にはどこからともなく現れた一本の鞭が握られていた。
空間を切り裂くような音とともに、容赦ない打撃が生徒たちに降り注ぐ。
「…………わかりました? 実力差。わたし、手加減苦手でして………。
このまま試合続行でも構わないのですが…………。どうします??」
叩かれた生徒たちは、口をつぐんだまま青ざめている。
そんな彼らを見下ろしながら、月はふと声のトーンを変えた。
「ああ、担任が人間でおることが不満でしたね。提案があるのですが……
ただの事務員であるわたしがあなたがたの担任になり、恐怖政治を敷きますか?
それとも、普通の感性を持つ人間の……柊先生に担任になってもらいますか?」
生徒たちは、食い気味に叫んだ。
「柊先生で!!」
月は満足そうにうなずく。
「わかりました。柊先生継続で。
落としどころとして……あなたたちの内申点に響かせておきますね」
そう言ってスキップ気味に退場を始める月。
その背中を見送りながら、生徒たちは項垂れていた。
しかし、その時だった。
一人の生徒が、にやりと笑う。
(いま……隙だ!)
その瞬間、空間が震えた。
少年の手から放たれたのは、最大出力の攻撃魔法。
「これで終わりだ!!」
魔力の奔流が月の背中に直撃。
凄まじい爆発音とともに、辺りが煙に包まれる。
「へっ!やったぜ!!」
煙の向こうで、高笑いするその生徒。
反発していた仲間たちも、次々と顔をほころばせた。
「やったな!」
「勝った!」
観覧席では、教師陣と生徒たちが立ち上がる。
「やりすぎだ!!」
カノンは顔をしかめた。
「あーあ………。もうしーらない……」
帝はぽつりと呟く。
「……のだ」
そして、煙が晴れた。
そこに、月の姿はなかった。
「えっ……?」
直後、背後からひやりとした声が響く。
「すこし………おいたが過ぎたようですね」
生徒が振り返った時、月はすでに彼の背後に立っていた。
「滅帝惡」
言葉とともに放たれた光が、瞬く間に全てを包み込んだ。
次の瞬間、生徒たちは真っ黒焦げになって闘技場の地面に倒れこむ。
意識はすでにない。
観覧席は静まり返る。
夜行が、ぼそりと呟いた。
「なんだ………あの圧倒的な力は………」
カグラは腕をさすりながら眉をひそめた。
「肌がピリピリするわ」
ヒサメはただ、ぽかんと口を開けた。
「うわあ…………」
セレナとシルフは黙ったまま、目を見合わせていた。
神に近い――そう言って差し支えない、異質な気配が空間に残っていた。
そして――
「はっ!!!」
月がはっと我に返るように叫んだ。
「いけない!! 起きてください!!
反省したかどうか聞かないといけないのに!!」
倒れた生徒たちを、月はぺしぺしと叩きながら起こそうとしていた。




