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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第7章『終焉の茶会、笑顔の裏の断罪記録』

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01.波乱の幕開け、エルミナ学園2年目

春。澄んだ空にやわらかな陽光が差し込む朝、エルミナ学園の校庭には整然と椅子が並べられていた。


その前には、生徒たちが三列に分かれて立っている。


初等部1年生、新入生60名。

中等部1年生、進級組10名。

そして、昨年度の初等部生徒たち――現在の初等部2年生20名。


それぞれの立場が異なれば、表情もまた異なる。


緊張でこわばった新入生たちの顔。

そこに混じる戸惑いや、ざわめき。

一方、進級組や在校生たちは、やや達観したような様子で静かに式を待っていた。


壇上には、いつもの調子で笑みを浮かべた月が立っていた。


 


「それでは〜、入学式を始めまーす」


 


伸びやかでのんびりとした声が響くと、列の前のほうにいた生徒の数人がぴしっと背筋を伸ばす。


が、それもつかの間。


 


「では、学園長の挨拶です。三分で終わらせてくださいね〜」


 


そう言って、月は壇上に置かれた小さな砂時計をくるりとひっくり返した。


壇上の脇から、黒髪黒瞳の青年――若返った姿の神崎学園長が現れる。堂々と前に出てきたその姿に、ざわめく生徒もいたが、それも一瞬だった。


神崎が口を開き、語り出した言葉は、確かに丁寧で理路整然としていた。


だが――


 


「……というわけで、本学園の理念は――」


 


カチ、カチ、と砂が最後の一粒を落とした瞬間、月が笑顔で拍手。


 


「はい、終了でーす!」


 


「まだ途中じゃが!?」


 


「時間切れですから〜。では、下がってくださーい」


 


笑顔のまま、月は神崎をくるりと方向転換させて、そっと背中を押した。


若返った姿で舞台袖へと消えていく学園長。


拍手とともに、なんともいえない空気が校庭を包む。


 


「続きまして〜、始業式を行いまーす」


 


息をつく間もなく月の声が続いた。


 


「では、学園長に代わりまして、学年主任の先生からひとこといただきます〜。ラットン先生、よろしくお願いします!」


 


「――初耳だね!? 学年主任も、挨拶も!?」


 


壇上に上がったのは、白い体毛に赤い目の小柄なネズミの姿――語学教師のラットンだった。


だが、彼の困惑も月の手にかかれば無効である。


 


「制限時間は三分でお願いしますね〜。はい、砂時計ひっくり返しました!」


 


「ちゅううううううう!!」


 


悲鳴のような声が、壇上に響き渡った。


 


「……うん。さすがだよ」


 


「去年と変わらないのだ。むしろ、悪化してるのではないか?」


 


式を見守っていたカノンと帝が、半ば諦めたような声で呟く。


彼らにとっては、すでにお馴染みの風景だ。


 


「また今年もこれなのね……」


 


「去年はさすがに怒られたと思ったのに……」


 


中等部の新1年生たちも、すでに月式進行に馴染んだ者が多く、どこか遠い目をしている。


 


その一方で、最前列に並ぶ初等部の新入生たちは、唖然として月を見つめていた。


 


「……え? あの人、先生?」


「事務員じゃないの?」


「無駄に……偉そうじゃない?」


「ていうか、入学式って普通もっと厳かじゃないの?」


 


ざわざわと、ささやき合う声が増えていく。


式典会場の空気は、春の陽気とは裏腹に、なんとも不穏な幕開けを迎えていた。


 


こうして、エルミナ学園二年目が、波乱とともに始まったのだった。

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