01.何もするなと言ったのに
焦土と化した土地に、静かな朝日が差し込んでいた。
瓦礫と灰に包まれた地面の中心に、小さな二つの人影があった。一人は正座し、背筋をぴんと伸ばしながら無言を貫いている。もう一人は隣で俯き、どこか所在なさげに指先で石をつついていた。
「……お前ら、ほんとに何もするなって言ったのに」
誰の声でもない。空気そのものが呆れているような、そんな沈黙がそこにあった。
* * *
数時間前。
「じゃ、行ってくるからな。絶ッ対に、ギルドをいじるなよ!」
万里の怒声が響く中、マスター――もとい、クロウは「うんうん」と軽く頷きながら手を振っていた。
その隣では、クロマが「今回は何もしないよぉ」と笑顔で誓っていた。 その笑顔が、これほど信用されていなかったことを、彼らはまだ知らなかった。
* * *
そして今。
「姉さんの不運、到着前に発動した……?」
焦土を見つめながら、カノンがぽつりと呟いた。
隣で同じく立ち尽くす帝が、真顔で口を開く。
「……見事な崩壊っぷりなのだ」
二人の足元では、月が小さく息を吐いた。漂う灰の匂いに、喉の奥が微かに痛んだ。
あの聖教会を抜け出し、ようやく辿り着いた場所。
「ギルド……だよね、これ」
カノンが眉をひそめる。
「うん、看板の“終”の部分が、かろうじて残ってるから。たぶんギルド」
帝が真剣にうなずく。
「判断基準がそれしかないのだ……」
そして二人は同時に、正座する二人の姿へと視線を向けた。
その姿はまるで、災厄の中心に鎮座する供物のようだった。
月は言葉を発さなかった。ただ、無言のまま一歩、また一歩近づいていく。
そして、正座する二人の目の前で立ち止まった。
「……はじめまして。あなたが、ここの責任者?」
その問いに、マスターが満面の笑みで顔を上げる。
「そうだよ! ギルドのマスター、マスタだよっ」
「僕はクロマなんだよ」
帝とカノンが、同時に月を見た。
「姉さん……今、笑ってないよね……?」
「うん。怒ってる。無言って、一番怖いやつ」
帝がそっと囁いた。
「風が止まったのだ……これは静かな怒りなのだ……」
月は何も言わず、ただギルドの焼け跡をぐるりと見回し、ふたたび静かに背を向けた。
「……寝る場所、探さなきゃ」
その声には、感情の揺れがなかった。けれど、それが一番怖いと、カノンと帝は知っていた。
マスターとクロマが再び正座し直す音が、カチン、と静かに鳴った。