07.半年越しの気づき
「はあ……昨日の仕事、疲れた……」
「お疲れなんだよ。僕はこっちの依頼、片付けてくるんだよ」
「ぼくはこれだ……じゃあね」
朝のギルド。万里、クロマ、ラミリスの三人は、それぞれの依頼を抱えて出ていった。
……その光景を、ゴローは何も考えず見送っていた。
* * *
午後の教室。
柔らかな日差しが差し込む中、ゴローは教室の後ろでぽつんと立ち尽くしていた。
周囲の生徒たちは机に向かい、課題に取り組んでいる。
だがゴローだけは眉をひそめ、何かに気づいたような顔で、首をかしげていた。
「……クロマ……いない。万里さんも、ラミリスも……」
その場にいた数人の生徒たちが、「えっ、今さら……?」とでも言いたげな視線を送る。
ゴローは何度かきょろきょろと教室を見渡し、そして──小さく呟いた。
「オレ……なんでひとりだけ、学校通ってるんだ???」
* * *
その日の放課後。
ギルドの応接室。ゴローは扉を勢いよく開け放ち、ずかずかと中へ踏み込んだ。
「ちょっと!!」
中には、見慣れた三人の姿──クロマ、万里、ラミリスが、くつろいだ様子で座っていた。
「なんで!! なんでオレだけ入学させられてんの!?!?」
一同が顔を見合わせる。
クロマが軽く肩をすくめながら、ぽつりと告げた。
「……勉強できなかったから、じゃない?」
「………………え??」
間抜けな声を漏らすゴローに、すかさず万里が追い打ちをかける。
「入学式の前日まで、九九言えなかったじゃん」
「ひらがなも書けてなかったの、忘れたのか?」
ラミリスが呆れたように微笑む。
「半年経って、ようやく気づいたの?」
ゴローは崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。
「……そんな……そんなバカな……!!」
「おおげさ」
クロマ、万里、ラミリス、容赦なく一斉にツッコむ。
「なんて日だあああああ!!!」
* * *
そのとき、奥のカウンターから顔を出したのはマスターだった。
「ゴロー、ちょうどよかった〜。この依頼、明後日までによろしくねー。超ギリギリ〜」
一枚の依頼書がふわりと宙を舞い──ゴローの顔面にぺしっと直撃。
「……うっす」
クロマがすぐさま言葉を重ねる。
「人手足りてないから、ゴローが戻ってきて助かるんだよ」
万里が頷く。
「学校なんか通ってる場合じゃないわよね〜?」
ラミリスは淡々と続けた。
「ぼくたち、毎日フル稼働なんだからさ」
「そっちが勝手に……ッ!!」
反論しかけたその瞬間──
「おだまり!!!」
「ひええええーーー!! 理不尽ーーーッ!!」
ギルドの夕暮れに、ゴローの叫びが虚しくこだました。




