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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第6章『終焉の茶会、常識破りの学級日誌』

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04.月式・道徳指導法

講堂には、ざわめきが満ちていた。

普段は静かな場所が、今日は妙な空気に包まれている。何の前触れもなく、生徒と教員全員に「講堂へ集合」との通達があったからだ。


 

「な、なに? もしかして、誰かやらかした?」


 

「罰とか……あるのかな……」


 

「やめろよ、怖ぇこと言うなよ……!」


 

生徒たちは不安そうな表情で席に着いていく。ざわつきは収まらず、空気は妙に湿っていた。


 

壇上の端、教員席には柊や橘、ミミ、グレンたちが並び、様子を見守っている。

いつもと違うのは、彼らまでもがやや緊張した面持ちで、視線を壇上中央に向けていることだった。


 

「……あ」


 

最前列に座っていたカノンが、ぽつりとつぶやいた。


 

「どうした、カノン」


 

隣の帝が小声で問う。


 

「なんか……嫌な予感がする……」


 

カノンは顔色を引きつらせながら、壇上中央の一角を指差した。

そこには、にこにこと微笑みながら手を組み、立っている月の姿があった。


 

「……のだ。……終わったのだ……」


 

帝が悟ったような声でつぶやいた。


 

壇上の月が一歩前へ出て、会場のざわめきにかぶせるように、明るい声を放つ。


 

「皆さん、こんにちは〜。本日はお集まりいただきありがとうございます。さて、早速ですが……皆さん、学校生活は楽しいですか? 仲良く過ごせていますか?」


 

沈黙。微妙な間。


 

ざわつきの波が一瞬止まり、やがて──


 

「はぁ? ふざけんな!」


 

獣人の大柄な男子生徒が立ち上がった。


 

「俺たちは、好きで来たわけじゃねぇ! こんな人間の学校に通わされるなんて、冗談じゃねぇんだよ!」


 

その言葉に続くように、後方から妖怪の少女が声を張り上げる。


 

「そうよ! 魔術も妖術も扱えない人間に教わるとか、バカにされてる気しかしない!」


 

さらに、今度は人間の男子生徒が立ち上がった。


 

「そーだそーだ! 俺たちは魔術が使えるんだ。魔術も妖術もない先生に教わる意味なんてあるのかよ!」


 

一気に騒然となる講堂。


 

教員席では柊が眉をひそめ、橘が困ったように額を押さえる。

ミミは「にゃんとまぁ……」と呟き、グレンは無言で腕を組む。


 

壇上の月は、そんな騒ぎを静かに見つめていた。


 

「……そうですか……」


 

その呟きと同時に、空気が変わった。


 

ピシィン──ッ。


 

金属音にも似た鋭い残響が、講堂全体を切り裂いた。

銀色の鞭が宙を舞い、獣人の生徒の目前すれすれで止まっていた。

その場にいた全員が、一瞬、息を呑む。


 

「今の、見えましたか?」


 

月の声は穏やかだった。


 

「避けられましたか? できなかったでしょう?」


 

場が凍りつく。誰も、動けない。


 

「今ここにいる先生たちは、皆さんに“常識”と“良識”を教えるためにいます。

彼らは、種族に関係なく、皆さんの未来のために来てくれた方々です」


 

月は視線を巡らせ、全員と目を合わせるようにして言葉を続ける。


 

「もちろん、わたしが直接教えても構いませんよ?」


 

その声は、なぜか冷たい笑みに包まれていた。


 

「でも……わたしに逆らうなら──死、です」


 

その言葉に、生徒たちは一斉に息を飲む。


 

「学園にいる間は、私たちの言うことを聞いてください。……返事は?」


 

沈黙。


 

月は首を傾けて、もう一度口を開いた。


 

「ねえ……返事」


 

──その瞬間。


 

「サ、サーイエッサー!!」


 

講堂全体に響き渡る、生徒たちの絶叫が起きた。

壇上で月は満足そうに微笑み、ゆっくりと頷く。


 

「うふふ。よろしい。では、先ほど逆らった方々は、内申点に響かせておきますね〜」


 

生徒たちの顔が引きつる。


 

「この記録は、進学や就職だけじゃなく、国家審査や結婚調査でも参照されるかもしれません。……どうなるか、わかりませんけど♪」


 

一瞬の沈黙。


 

「うわああああああ!!」



カノンと帝が、声を揃えて叫んだ。


その悲鳴を背に、月は微笑んだまま銀の鞭をひらりと収めた。

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