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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第6章『終焉の茶会、常識破りの学級日誌』

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03.道徳って、なに?

昼下がりのエルミナ学園。

まだ開校して間もない教室には、さまざまな子どもたちの声が響いていた。


 

「……ボク、もう無理かも……」


 

うつ伏せになって机に突っ伏しながら、カノンが絞り出すような声を漏らす。


 

「まだ“わ”の書き取りだろ。早くやれなのだ」


 

隣の席の帝が、軽くため息をつきながら教科書を覗き込む。

完璧に整った筆跡が並ぶノートを見せながら、淡々と告げるその姿は、すっかり“できる子”のそれだ。


 

「だってぇ……カーブが毎回へんになるんだもん……」


 

「ひらがなは魔術じゃないのだ。努力するのだ」


 

「言い方が怖いよぉ!!」


 

「事実なのだ」


 

そんなふうにして、1-Aの一角では今日も微笑ましい(?)やり取りが繰り広げられていた。


 

一方その頃、別の教室では――。


 

「つまり、円は無限なのだから……すべては円で説明がつくんだ!!」


 

教室の前で堂々と主張しているのは、初等部1-Bのゴロー。

どうやら算盤の授業中らしいが、指導内容とは全く関係のない持論を展開中である。


 

「いや、つかないって」


 

「せめて九九を覚えてから喋って」


 

小声でツッコミを入れる声がちらほらと聞こえ、生徒たちはジリジリと後方へ退いていく。

本人だけが自信に満ちた顔で、黒板に「まる」と大きく書いた。


 

そんな日常の中、微かな空気の歪みも生まれていた。


 

「……ふぅん。魔術、使えないんだ」


 

「じゃあ、魔術の授業どうすんの? ついてこれないよね?」


 

他愛ない会話に見えるが、そこににじむのは種族や力への“優越感”。

とはいえ、言い合いに発展するほどの緊張感ではなく、まだ言葉の端に棘がある程度。


だが、教師たちにはその空気がはっきりと伝わっていた。


 


──場所は職員室。


 

「魔術が使えない教師なんて、って顔されました……」


 

眼鏡の奥で眉をひそめながら、橘葵が静かに呟く。


 

「読めねぇ書けねぇ足し算もできねぇ子どもに、毎日ひらがな教えてんだぞこっちは!」


 

柊湊は珍しく語気を強め、机にドンと手をついた。


 

「そりゃ……見た目で判断する子どもがいても、おかしくないけど……やってらんねぇよ……」


 

疲れきった様子で背もたれにのけぞり、天井を見つめる柊。

その様子を、奥の事務机で湯呑みをくるくると回しながら見つめていたのが月だった。


表情は、いつものほんわかしたもの。

だが、その瞳の奥に一瞬、何かが光る。


 

「……ふむ。では、明日は講堂に集まってもらって、“道徳”の授業をしましょうか」


 

さらりとした口調だった。

だが、その場にいた全員の動きが止まる。


 

「……道徳?」


 

「道徳って……何を教えるんですか……?」


 

ぽつりとつぶやく橘の声に、場の空気がぐらりと揺れた。


 

柊は思わず身を乗り出し、机越しにすがるような視線を送る。


 

「月先生……本気か? その“道徳”ってやつで、子どもたち……変わると思うか……?」


 

「月先生……私、もう、限界なんですけど……」


 

月は笑顔のまま、湯呑みにそっと口をつけた。


──その笑みに、不安しか覚えなかった。

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