02.ようこそ、白亜の学舎へ
春の空気がまだ少し冷たい朝。
だが、集まった子どもたちの表情はどこかそわそわと浮き立っていた。
――エルミナ学園、開校初日。
真新しい白亜の校舎。だが、その白さは年月を経たものではない。
ついこのあいだ、ようやく完成したばかりの“できたてほやほや”である。
それでも、集まった子どもたちの目には、十分に立派で、眩しく見えた。
「はーい、それでは、こちらの講堂へどうぞ〜」
先導するのは、いつも通りのゆるさで微笑む月。
私服姿の子どもたちは、よくわからないまま、とりあえず列を作って入っていく。
「ちょ、カノン、もうちょっとゆっくり歩けって! オレ、ついていくのがやっとなのだ!」
「だめ! 遅れたら変な席しか残ってないんだから!」
帝の抗議にも耳を貸さず、カノンは手をぐいぐい引っ張る。
人見知りのくせに、こういうときだけやたらと行動的になるのがカノンの特徴だった。
そんな二人のすぐ後ろ、まだ何が始まるのか分かっていないゴローが、ぽけっとついてきていた。
講堂に整列した子どもたちの前で、月が明るく声を張る。
「みなさん、本日はご入学おめでとうございます! エルミナ学園、入学式を始めます!」
拍手もまばらに起きる中、月が脇へ下がる。
代わって中央に進み出たのは、白髪の老人――神崎泰蔵、学園長である。
「えー、我が学園はですねぇ……この地に集うすべての子どもたちに、学びと希望を――」
開始から三十秒で、子どもたちの集中力は切れた。
五分後、誰も神崎の言葉を聞いていない。
十分後、カノンが眠りかけていた。
「はーい。長いんでここまでにしましょうね〜」
月の一声で、神崎は講堂の隅へゆるゆると連行される。
その間、講堂のあちこちで、ぽかんと口を開けた子、目を擦る子、隣の子とひそひそ話す子たちが目立ち始めていた。
空気にざわめきが戻り、緊張よりも「疲労感」が勝り始めていたところだった。
月はそのまま壇上に戻り、さらりと宣言する。
「では、これで入学式を終わります! 担任の先生の案内で、それぞれ教室へ移動してください〜」
「おい、もう終わりなのか……?」
帝が思わずつぶやく横で、カノンは元気よく手を上げた。
「ボクたち、1-Aだからね!」
案内に従い、生徒たちはそれぞれの教室へ分かれていく。
橘葵が担任する1-Aには、カノンと帝が。
柊湊の1-Bには、ゴローの姿があった。
教室に入ると、さっそく自己紹介が始まった。
緊張する子、にこにこしてる子、座ったままの子。反応はさまざまだ。
ゴローはまだ、なんとなく呼ばれたから来ただけ、という顔をしている。
だが、自分の番が来たとたん、彼は立ち上がってようやく気づいた。
「オレ、小学生になってるじゃん!!!」
「そこ。うるさい。」
柊のピシャリとしたツッコミが飛ぶ。
エルミナ学園の最初の一日は、こうして静かに、そして騒がしく始まった。




