01.誰が決めた、初等部入学
夕方のギルド。
応接室には、夕焼けの光が斜めに差し込んでいる。
カノンと帝は、いつものように手伝いを終えて、一息ついていた。
そこへ、月が現れる。
にこにこ顔で書類を手に持ったまま、まるで何でもないことのように言い放った。
「そういえば、カノン。来月から初等部に入学することになりましたからね〜」
「………………は?」
数秒の沈黙のあと、カノンが椅子から飛び上がる。
「ちょ、ちょっと待って!?
なにその勝手な決定!? 聞いてないんだけど!? 同意もしてないし!!」
「だってカノン、勉強もあんまり得意じゃないじゃないですか〜」
「ボク、頭悪くないもん!!」
「ううん、カノンが頭悪いから仕方ないの!」
「ひどい!!!」
カノンが今にも泣き出しそうな顔で抗議するのを、月はまったく悪びれた様子なく受け流した。
「だから、帝も入学させますよ〜」
「のだ?!」
突然の名前呼びに、帝がびくりと肩を揺らす。
「ふざけんな!!
オレは何も聞いてないのだが!!」
「兄弟一緒のほうが安心でしょう? ね? カノン?」
「……帝も一緒なら、まあ……ちょっとだけなら……いいけど……」
「ほら、決まりですね〜。じゃあ帝……腹くくってください。カノンのお世話、よろしくです」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
帝は眉をひそめ、唇をかみしめる。
だが、月の笑顔はどこまでも無垢で容赦がない。
その様子を、応接室の隅から静かに見つめていた三人がいた。
万里、クロマ、ラミリス。ギルドの古参たちだ。
「……聞いたか?」
「聞いたね〜」
「うん、聞いた聞いた」
三人は顔を見合わせ、なぜか満足げに頷く。
「……ゴローも頭悪いよね」
「だね〜」
「よし、入学っと」
万里がさらさらと書類に文字を書き、クロマが魔力封印の符を貼る。
ラミリスは、にっこり笑って封筒を閉じた。
――本人不在のまま、ゴローの初等部入学は静かに決定した。




