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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第5章『終焉の茶会、白亜の学舎と時間停止』

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04.時間停止と、努力と、狂気と

冬の朝。

湯気の立ち込める職員室前。教師たちは、もはや諦観すら混じった表情で足を運んでいた。



「今日も混沌の始まり、ってやつか……」

柊が湯たんぽをぎゅっと抱きしめ、ため息をつく。



「昨日の様子じゃ、今日は机だけの部屋で“妄想授業会議”だな」

シルフがマフラーを巻き直しながら肩をすくめる。



「プリントとか、あんなの作れる気がしないのにゃ〜」

ミミが耳をぴこぴこと動かしながらぼやいた。



ギイィ……。

扉を開けた瞬間、彼らの目に飛び込んできたのは――


整然と並ぶ教材の山。教科書、配布資料、授業進行表に学年別カリキュラム。

整理棚にはクラス名が記されたラベルまで貼られている。



「……えっ」

柊がまばたきする。



「えっ!? なんで!? なんで!?」


「こ、これは……我輩が用意したいと願っていた語学教材……全巻!?」

ラットンが震える手でピンクの表紙をなぞる。


「しかも表紙ピンクでかわいい……!」

カグラが感嘆の声を漏らす。


「……これは……夢か……?」

湊がふらりと立ち尽くす。


「誰かオレを殴ってくれ……」



そのとき――



「……皆さん、静かにしてください……」



静かに部屋へ入ってきたのは、いつも通りの笑顔とは異なる、神妙な面持ちの月だった。



「は、はい……?」

全員が思わず背筋を伸ばす。



「一日って……24時間しかないんです」


「……うん」

皆が頷く。


「でも、皆が寝静まった時間があると……時間ができるじゃないですか〜。ちょっとだけ、いろいろ進められるんですよ〜」


「……………………」

職員室が凍りついた。


「つまり……」

ヒサメが額に手を当てる。


「昨日の夜、時間を止めて……せっせと作りました!!」


「うわぁ……真顔で言ってます……」

セレナが少し引き気味に呟く。


「なんか……月が一番魔術使ってる気がしてきた……」

シルフがぽつり。



教科書はきちんと学年ごとに分類され、どれも表紙のデザインや紙質に至るまで丁寧に作られていた。

湊の癖を再現してフォントが調整された国語プリント。

中等部以降で使用する、魔力の流れを視覚化するための補助魔術付き魔術ノートまで完備されている。

そして、教材にはさりげなく「眠気を吹き飛ばす香り」が仕込まれていた。



「全部……一人で……?」


「いや、逆に怖い……!!」



教師たちが教材に囲まれながら、なぜか距離を取る。



「……わしの出番、またないんじゃが!?」



職員室の隅から叫ぶ声が響く。



「学園長は……今日は封筒の糊付け係ですよ〜♪」


「のりぃぃぃぃ!?」



神崎の苦悶の唸りが、今日も静かに職員室にこだました。

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