03.書類もカリキュラムと、月の謎作業
冬の朝。
職員室には湯気が立ち上り、教師たちは各々、湯たんぽを抱えながら月作の新品の椅子に腰を下ろしていた。
「では、会議を始めましょうか」
最初に声を上げたのは、柊 湊。ラフな服装のまま、指先を擦り合わせながら席に着く。
「備品はなんとか揃いましたし、次はカリキュラムと教材の確認ですね」
「えっ」
空気が凍った。
「あの、教材って……自分で用意するんじゃないんですか〜?」
月が悪びれもせず、満面の笑顔を浮かべる。
「「「「そんなわけないでしょおおおおお!!!!!」」」」
職員室に絶叫が響く。
「せ、先生方……朝から元気ですね〜」
「元気の問題じゃないです!」
眼鏡を押し上げながら、葵がきっぱりツッコむ。
「読み書きのプリントも、児童向けのテキストも……なにもない……」
柊が机に突っ伏す。
「我輩の語学資料も……ゼロですぞ!? これは非常事態です!」
ラットンも空白のプリントを掲げて嘆く。
「うーん、わかりました〜。じゃあ、作りますっ♪」
月はにこやかに宣言した。
「……いつまでに?」
「明日とか……?」
「「「明日って軽く言ったなこの人!!」」」
二度目の絶叫が響く。
「あの……」
セレナがそっと手を挙げる。
「魔術の授業で使う道具や教材って……ありますか?」
「それはですね、再来年までに間に合えばいいと思ってます〜♪」
「「再来年!?」」
職員室に三度目のどよめきが走る。
「だって、最初は全員“初等部1年生”なんですから。中等部に進級するかもしれない子がでてくるのは、その次の年です〜」
「そ、それはそうですけれど……」
セレナが苦笑し、シルフが顔をしかめた。
「その理屈で……安心していいのか?」
そのとき、部屋の扉が少し開く。
「わしもこの騒動に混ぜてくれぬか……」
神崎 泰蔵、登場。
「では、封筒貼りお願いしますっ♪」
即座に任命される学園長。
「また地味な仕事ぉぉぉ!!!」
叫び声がむなしく響いた。
「学園長、大変なのにゃ〜♪」
ミミが楽しそうに笑う。
「じゃあ、今から案内書と入学願書と教材を作ってきますね〜」
月が手を振ると同時に、ラットンが全力で叫んだ。
「まさかとは思うが、紙から!?」
「はいっ! 紙も筆も、表紙も作りますっ♪」
「道具から作るのか!?」
湊の声が震える中、月は優雅にスーッと部屋を出て行った。
しばしの沈黙。
「備品が揃って、書類が揃って……でも」
ヒサメがぽつりと呟く。
「それを使う人間がまだ来てないっていうね」
カグラが肩をすくめる。
「案内出してないですもんね……」
セレナがうなずいた、そのとき――
「それも作ってますよ〜!」
ドアの隙間から、にこにこと顔をのぞかせる月。
「「「一体いつ寝てるのこの人……!!」」」
職員室に、四度目の絶叫がこだました。




