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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』

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10.終わりなき始まり

あの日、月が「勤務は月月火水木金金です!」と笑顔で宣言してから、早くも数ヶ月が経過していた。


ギルドの応接室では、朝から教員たちの会議が続いていた。教材、カリキュラム、必要備品に至るまで、膨大な準備を前に誰もがため息をついている。



「……結局、あの子は今日も来てないんだよね?」



ふと誰かが呟くと、空気が微妙に沈んだ。



「ええ。昨日も、一昨日も、その前も……」



橘が眼鏡を押し上げ、ノートを閉じる。


誰もが、その“不在の存在”を思い浮かべるのだった。


──月は、一人で学園の建設を続けていた。


ただし、釘も金槌もいらなかった。


必要なのは、有り余る魔力、ただそれだけ。


地面に立ち、目を閉じると、彼女の周囲に淡い光が立ち上る。

浮かび上がる設計図も、使われる建材も、全てが彼女の魔力によって“思い描かれるがまま”に生成されていく。


石が形を取り、木材が編まれ、壁が立ち上がり、天井が張られていく。

まるで絵本を描くような精度と速度で、校舎が一つ、また一つと現実化していった。



(うふふ……建築って、意外と簡単ですね)



そんな声が風に溶けて、空に消えた。


会議で話し合われる内容にも参加しない、連絡もこない。

それでも、彼女が何かを“築いている”ことは、誰の目にも明らかだった。


そうして、さらに数ヶ月が過ぎたある日。


ギルド応接室に、満面の笑みを浮かべた月が現れた。



「みなさん! お待たせしました! 完成しました!!」



一瞬、時間が止まる。



「……完成って、何が……?」



柊が呆然と問いかけると、月は胸を張って答える。



「学園です!!」



――学園が?


あの、何もなかった空き地に?


教員たちは、まるで狐につままれたような顔で顔を見合わせた。


そして一同は、現地へと向かうことになった。


街の外れ、数ヶ月前にただの空き地だった場所。

そこに、堂々とそびえ立つ建物があった。


曲線と直線が調和した独特の建築様式。

石と木が美しく融合し、風と光を受け入れる校舎。

校章も掲げられ、入口の門には『エルミナ学園』の名が刻まれている。


誰も、言葉が出なかった。



「……本当に、造りやがった……!」



柊が呟いたその一言で、皆の思考が現実に戻った。



「にゃ、にゃんで……こんなの、できるの……?」



ミミが半泣きで震えながら、ドアを触る。


開く。


教室、廊下、棚、黒板、椅子、机。

全てが、あまりに丁寧で、あまりに温かい。


月は、汗も泥もどこ吹く風のドヤ顔で、皆を中へと案内した。



「これが……私たちの学園です!」



重い沈黙の中、誰よりも先に口を開いたのは神崎だった。



「……いやはや、わしの時代でも、ここまでのことをやり遂げた者はそうおらなんだ」



ラットンがゆっくりと頷く。



「この徹底ぶり……建築美学の粋すら感じる。これはもう、“愛”ですな」



セレナが柔らかく笑う。



「うふふ……まさか、本当に完成するなんて……涙が、出そうですわ」



そして、シルフがぽつりと呟いた。



「……風が、すごく、あたたかい」



月は皆の前に立ち、手を広げた。



「完成したものは、もう……仕方ありません! 私たちは、これを“学園”として、運営していかなければなりません!」



教師たちは見つめ合い、やがて誰かが頷いた。


一人、また一人。


迷いが、静かに希望へと変わっていく。


そして──



「それでは皆さん! 今から、校内清掃と授業準備、そしてイベント企画と……」


「ちょ、ちょっと待って!? まだ何も始まってないから!?」



柊が全力で止めに入り、ミミが耳をぴくぴく震わせながら絶叫した。



「にゃああああああ!? もう働くのにゃ!? 早すぎにゃあああ!」



月は、きょとんとした顔で首をかしげた。



「えっ、違うんですか? もう勤務開始ですよ??」



……こうして、エルミナ学園の“始まり”は、騒がしく幕を開けたのだった。

次章・第5章『終焉の茶会、白亜の学舎と時間停止』は、

7月18日 朝8時より投稿を開始します。


どうぞ、お楽しみに。

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