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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』

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08.礎を築くその前に

朝のギルド応接室。

まだ眠気の残る空気の中、月は整えた書類を手に、教員たちを前に立った。昨日の顔合わせを終えての、最初の集まり。すでに椅子には見知った面々がずらりと揃っている。



「皆さん、おはようございます。本日もお集まりいただき、ありがとうございます」



ぺこりと一礼した月は、持っていた資料を卓上に置く。



「今日は──エルミナ学園の予定地をご案内しようと思います」



静かな空気の中で、ひとつ、椅子がぎしりと音を立てる。



「学園の……予定地?」



メガネの奥で橘が眉をひそめる。

月はにこっと笑って応じた。



「はい。昨日は顔合わせが中心でしたので、今日は実際の場所を見ていただこうと思いまして」



月の言葉に、教員たちは顔を見合わせる。

それぞれが、言葉には出さないまでも、何かを察するような沈黙だった。


──そして移動。


街の外れ。緩やかな丘を越えた先に、その場所はあった。

一面に広がる、何もない更地。

風に揺れる草が、わずかに季節の香りを運んでくる。



「……にゃ?」



最初に声を漏らしたのは、ミミだった。

ぴょこんと立った猫耳が、くいっと角度を変える。



「ここって……空き地、にゃ?」



その言葉に、グレンがゆっくりと足を止め、無言のまま地面を見つめた。

少し首をかしげているあたり、戸惑いは隠しきれていない。



「えっ、うそ……まさか、まさかね。ね?」



柊が月の方を振り返る。

彼の表情は苦笑いと焦りの中間だった。



「あの……ここ、じゃないよね?」


「うふふ……不安が募りますわ」



セレナは穏やかな笑みを浮かべたまま、けれど口元には確かに困惑の色がにじんでいた。



「空き地だな、うん」



浮遊したまま地上をぐるりと見回して、シルフがつぶやく。



「あらあら……建物はどこかしら?」



カグラは頬に指を添え、楽しげに微笑みながら首を傾げる。



「こほん。我輩の目には、建設予定地すら見当たらぬのだが……?」



ラットンが杖の先で地面を軽く突いた。

その仕草もまた、疑念を隠しきれないものだった。



「……ここか。ずいぶん、挑戦的だな」



夜行は静かに立ち止まり、目を細めながら辺りを見渡している。



「ほっほ、こりゃまた……潔いのう」



神崎はどこか楽しげに笑いながら、地面をぐっと踏みしめた。


全員の視線が、月に集まる。

彼女は一歩前に出ると、明るく笑顔を浮かべた。



「──大丈夫です! DIYしますから!」


一拍。

二拍。


「……DIY?」



全員が同時に呟いた。

静寂が風に溶けていく。



「DIYって……えっと、自分でやる……何を、だ……?」



柊が真剣な顔で呟くと、隣で葵がそっと手帳を開き始める。



「これは……略語でしょうか? “Do It Yourself”…あっ、直訳では意味が……」


「うふふ、よくわかりませんけど、月さんならきっと大丈夫ですわ」



セレナは笑みを崩さぬまま、そっとシルフの方へ視線を送る。



「やる気は……ある、な。うん。問題は、できるか、どうか」


「にゃ……工具って、何がいるの? あたし、トンカチは使えるにゃ!」


「わし、こう見えても昔は庭の塀を直したことがあってのう」


「それって……建築じゃなくて修理じゃ……」


「ふふ、じゃあ私、お茶と恋バナ担当ね」


「……それは、建設に含まれるのか?」



そんなやり取りがぽつぽつと広がる中──

月は胸に手を当て、そっと呟いた。



「皆さんが集まってくれた。なら、大丈夫……きっと、できる」



理由なんて、なかった。

ただ、不思議と確信があった。

いくつもの生を越えてきた──記憶ではなく、本能がそう言っていた。


……始まりは、空き地から。

道具も図面も、まだ何もない。

けれど、月の心には確かに、“始める理由”があった。


次回──本当に始まる建設の日々へ。

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