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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』

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07.集いの鐘が鳴る

エルミナ学園設立の準備が進む中、月は静かに一枚の手紙を書き上げた。 インクが乾くのを見届けると、彼女はそれを小さく折りたたみ、そっと伝書鳩の足に結びつける。



「お願い、みんなに届けて」



羽ばたいていく鳩の姿を見上げながら、月は深く息を吐いた。 内容は簡潔なものだった。


──明日、ギルドの応接室にお集まりください。 顔合わせと、ご挨拶の機会を設けたいと思います。


翌日。 朝日が差し込むギルドの応接室に、ぽつりぽつりと集まる影があった。


最初に姿を現したのは、白く光る衣の精霊──セレナだった。 その後ろから、緑の風をまとったシルフが、ふわりと浮いて現れる。


続いてやってきたのは、猫耳をぴょこぴょこと動かしながら元気に歩くミミと、無言のまま巨体を揺らすグレン。 二人は並んで座ると、特に会話を交わすこともなく、静かに待ち始めた。



「……案外、みんな時間通りに来るのね」



そう呟いたのは、橘葵。 眼鏡の奥で瞳を細め、丁寧に手帳を取り出す。 その隣に立つ柊湊は、ラフなシャツ姿で、気さくな笑みを浮かべていた。



「緊張してきたなあ。なんか、面接前みたい」



その声に反応するように、カツ、カツと足音が響く。


入ってきたのは、赤い瞳の九尾──カグラ。 ゆるく巻いた髪が揺れ、柔らかく笑みを浮かべている。



「ふふ、楽しそうじゃない。こういう“始まり”って、嫌いじゃないわ」



さらに、ぬらりとした気配をまといながら、ヒサメが現れる。



「静かな集まりは、落ち着くね。喧騒よりは、好ましい」



そして、椅子のひとつに、ラットンが紳士的に腰かける。 白い体毛と赤い目を持つ、ネズミのような妖怪。彼は軽く杖を鳴らすと、周囲に丁寧に一礼した。



「お初にお目にかかる。我輩、語学を教えることになっておる。どうぞよろしく」



最後に現れたのは、杖をついた白髪の老人──神崎泰蔵だった。 その表情は柔らかく、ゆっくりと部屋の中心に歩を進める。



「いやはや……皆が集う場とは、胸が高鳴るのう」



集まった者たちは、全部で十一名。


月は皆の顔をゆっくりと見渡し、深く頭を下げた。



「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。 エルミナ学園の教員として、共に歩んでくださる皆さまに──改めて、ご挨拶をお願いしたく存じます」



部屋に、静かな期待と緊張が漂う。


ひととおり全員がそろったことを確認すると、月は立ち上がり、前に出た。



「改めまして、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」



彼女の声に、応接室の空気がやわらかく引き締まる。



「皆さんには、これから共に学園を支えていただくことになります。その前に──まずは、自己紹介から始めましょう」



月の言葉に、自然と視線が集まり、それぞれが順に前へ出ていく。



【精霊組】


「わたくし、セレナと申します。魔法の基礎と、魔法の歴史をお教えいたしますわ……うふふ」


「風の精霊、シルフだ。担当は魔法基礎。……まあ、なるようになるさ。よろしくな、オレの授業に遅刻しなけりゃ、それでいい」


【妖怪組】


「カグラと申しますわ。魔法基礎の実技を担当いたします。ふふ、恋バナがお好きな方は、ぜひ放課後にでも♡」


「ヒサメ。魔法基礎(実技)を……まあ、担当するよ。あまり真面目な授業は期待しないでくれたまえ」


「我輩はラットン。語学を担当する所存。どうか皆様、お手柔らかに願いたい」


「夜行だ。歴史、とくに魔術史と差別の系譜……それらを語る役を担おう」


【獣人組】


「あたし、ミミ! 魔法薬学はまかせてにゃ! みんなで楽しく実験するにゃん!」


「……グレン。体術、教える」


【人間組】


「橘 葵と申します。数学を担当させていただきます。精一杯努めますので、よろしくお願いいたします」


「柊 湊って言います。国語を担当。堅苦しいのは苦手だけど……まあ、仲良くやりましょう」


「神崎泰造と申す。」



月は小さく頷き、再び前に出る。


「ありがとうございます。それでは……最後に」


「この学園の中心となる、“学園長”を──選びたいと思います」



場が静まり返った。誰も手を挙げようとしない。


沈黙が長引く。



「……あたし、いいこと思いついたにゃ!」


ミミが手を挙げて笑う。



「こういう時は、じゃんけんで決めたらいいにゃん!」



月が苦笑する横で、気づけば場の空気が和んでいく。


そして数分後──見事に勝ち抜いたのは、神崎だった。



「ほっほっほ……じゃんけんの勝者として、引き受けさせてもらおうかの」


「これで、エルミナ学園の土台が整いました」



月が、静かにそう口にした。



「ここから──私たちの、新しい学び舎が始まります」



誰もが黙って、けれど力強く頷いた。


この時から、エルミナ学園は動き出したのだった。

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