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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』

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06.見定めの眼差し

白い光の中から、ゆっくりと月が戻ってきた。

足元はまだおぼつかず、体の芯に残る重苦しさが、ひとつひとつの動作を蝕んでいく。瞼をわずかに開けると、濃く揺れる霧の帳の中、灯籠の火だけが赤く揺れていた。


やがてその視界に、ひとつの影が浮かぶ。



「……どうやら、お前は逃げなかったようだな」



夜行だった。

その声音は鋭さを湛えながらも、どこか落ち着いている。変わらぬ冷淡な口ぶり──けれど、その奥には、確かに微かな“変化”があった。



「ならば、とりあえずは“協力”してやろう」



その言葉が放たれた瞬間、霧が微かにざわめく。

静かな口調に込められたそれは、軽い言葉ではなかった。

過去を背負い、なお試す者としての覚悟が、確かにそこにはあった。


その声音を受けた瞬間、月の肩からすっと力が抜けた。



「……よかった……」



小さく、確かに呟き、そしてそのまま──地に崩れ落ちるように、眠りに沈んでいった。



---


静かな部屋だった。

天井の木組みには、うっすらと草の香が混じる──妖怪たちの拠点としては、意外なほど整った個室。掛け布団の重みを感じながら、月はゆっくりと目を開けた。


視線を横にずらすと、椅子に腰かけた影がある。



「……無理をするな」



声の主は、やはり夜行だった。

黒い衣のまま、姿勢を崩すことなくじっと座っている。その表情はいつも通り読めず、月はゆるやかに息を吐いた。



「……ありがとうございます。戻れて、よかった」



かすれる声でそう呟きながら、身体を起こそうとした瞬間、夜行は軽く片手をあげて制した。



「お前が眠っている間に、幾人かに話を通した」



夜行は、やや視線を外しながら続ける。



「教員候補、俺を含めて……他三名──決まった。それだけ、伝えておく」



報告とも、義務ともとれる調子だった。


月は微かに目を見開き、やがて表情を和らげる。

だが、その瞳の奥にはまだ、うっすらとした不安の影が残っていた。



「……本当に、ありがとうございます」



深く、月は頭を下げた。


それに返事をすることなく、夜行はただ彼女の顔を見つめ続ける。


──あの目が、どこまで“本物”か。

心の中で、夜行は静かに呟いた。


──もし偽りならば、あのときのことは──絶対に、許されぬ。


ふと、月がまどろみの中で小さく呟く。



「がんばらなくちゃ……」



無意識の言葉のように、けれど確かに、自分自身に言い聞かせるような声で。


その音を背に、夜行は無言で席を立った。

視線を月に戻すことなく、霧の帳の奥へと、ゆっくりと歩き出す。


夜は、まだ深い。

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