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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事【改稿版】  作者: ポン吉
第1章『月、囚われの祈りより解き放たる』
3/40

03.流転、そして焼け野原

夜の道を、三つの影が進んでいた。


風が吹けば、カノンの髪が揺れ、月の銀髪が月光を跳ね返す。

帝は無言のまま、懐から地図を取り出して方角を確かめた。


──聖教会からの脱出から、三日。


彼らはただひたすら、西へ、西へと歩き続けていた。



「姉さん、こっちで合ってると思うんだよね。なんか、“ここだ!”って感じがするんだ!」



カノンが振り返って笑う。

根拠はないが、誰も否定しなかった。


帝は荷を背負い、わずかに歩調を緩める。

それを見た月が、小さく呟いた。



「……ありがとう、帝」



その言葉は、確かに届いたはずだった。

だが、帝は無言のまま目を逸らした。


不思議な距離。

けれど、確かに傍にいる。

その沈黙に、月は何も言わず、歩を重ねた。


──だが、平穏な旅など、月の“不運”が許すはずもなかった。


最初に崩れたのは、橋だった。


渡ろうとした瞬間、木がきしみを上げ、次の瞬間には轟音とともに崩れ落ちた。



「ギリギリセーフ! 姉さん、運いいじゃん!」

「わたし……落ちてたよ。帝が掴んでくれなかったら……」



次は食料。


保存していた干し肉は青黒く変色し、パンはなぜか凍っていた。


さらに夜営。


張ったばかりのテントは突風で吹き飛び、その後に出火。

地面は燃え、焚き火どころではなかった。



「くっさ! これ焚き火じゃないよ! なんで火ぃ出るのさ!」

「わたし、火なんて使ってな──……」



月が呆然と立ち尽くす中、帝が無言で水の魔法を展開し、炎を鎮めていた。


トラブルは続く。


歩いていた道が、ある地点で突然消えた。

霧の向こう、踏み跡は空中でちぎれたように途切れている。



「もう道が現実逃避してる……姉さん、やっぱりこれ、穢の残りじゃない?」


「……カノン」


「ごめん」



終始、トラブル尽くし。

けれど──そのすべてを、誰かが支え、誰かが笑い、誰かが黙って受け止めていた。


そしてようやく、目的の街が見えた。



「ここが……エルノア……?」



月がぽつりと呟く。


かつて賑わい、種族の垣根を越えて人が交わる“最果ての楽園”。

しかし今、その姿は──違っていた。


街の入口には焦げ跡。

道のあちこちには、まだくすぶる炎と黒く変色した地面。


まるで、何かが爆ぜた後のように。


──それでも、住人たちは騒がなかった。


老人は椅子に腰かけて煙草を吸い、子供たちは火花の傍で遊んでいる。

焼けた屋根の下、パン屋の娘は変わらず客の応対をしていた。


誰も、“異常”を異常と思っていない。



「……おかしいね?空気が普通すぎるというか……」



カノンが低く呟く。


帝は黙ったまま、周囲を見渡した。


街の中心部──ギルドがあるはずの場所。

そこは、特にひどく焼けていた。


地面は黒く焦げ、建物の輪郭はもはや影だけ。

まだ熱の残る石畳が、崩れた姿を晒していた。



「……いないね」



カノンの声に、月は返さない。

ただ、じっと、焦土の中心を見つめていた。


その横顔を見ながら、カノンがそっと笑う。



「……うん、だいじょぶ、姉さん。たぶん、ね」



そう言って、火の残る石畳の上を歩き出す。


焦げた空と沈黙のなか──物語の第一章は、静かに幕を下ろす。

次章

第2章『終焉の茶会、再建始動』

は、7月3日 朝8時より投稿を開始します。


どうぞ、お楽しみに。


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