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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』

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03.揺らぐ地上の民たち

翌日。

ざわつく人々の視線を一身に受けながら、月は静かに広場の壇上へと歩を進めた。ひとりきりの登壇。けれど、その背筋は真っ直ぐだった。



「私は今、学び舎を作ろうとしています」



声は澄んでいた。恐れも迷いも、そこにはなかった。 



「誰もが怯えず、誰にも支配されず、学べる場所を。このエルノアの地に、築きたいのです」



民たちの間にざわめきが広がった。若い者たちは戸惑いを、年配者は疑念を、その目に浮かべる。その中の一人、中年の男が強く声を張り上げた。



「“聖女”面するな! てめえがどこにいたか、みんな知ってんだ!」



その言葉に、場の空気が凍りついた。だが月は、一歩も退かなかった。



「変われたかどうかは、皆さんが決めてください」



そう言って、視線を広場に集まる全員にまっすぐ向けた。



「でも、私は変わろうと決めました。だから、この街の子どもたちの未来を信じたいんです」



誰かの声が返ってくることはなかった。けれど、月はその静寂を否定とは取らなかった。心の中で、クロマの言葉を思い出す。


──月の本気は、いつも行動で伝えてる。


それを信じて、月は次の場所へと向かっていった。


──風の音が、耳元で遊んでいた。



「また、面倒ごと始めたな」



背後からふいにかけられた声に、月は振り返る。そこには、長い髪を風になびかせた精霊──シルフが立っていた。



「逃げ道、ちゃんと用意しとけよ? 手出しはしないけど、巻き込まれるのは御免だしな」


「……ありがとう。それでも、伝えたいことがあるの」



 月の言葉に、シルフは肩をすくめた。



「ったく、無茶ばっかするやつだな。……でも、まぁ」



口の端に笑みを浮かべ、シルフは風のように姿を消す。



「泣いている誰かを、放っておけませんの」



続いて現れたのは、やわらかな笑みを浮かべた精霊、セレナだった。



「ただし、あまり縛られるのは好きではありませんわ。私たち、自由が本質ですもの」


「もちろん。あなたがあなたのままでいられるように、この学び舎を作りたいんです」



セレナはその言葉に目を細め、くすりと笑った。



「それなら、漂わせていただきますわ。ふわふわと、あなたのそばに」



広場からの帰路。月の背中に、穏やかな声がかけられた。



「おいおい、あんまり気張ると倒れるぞい」



そこに立っていたのは、白髪に丸眼鏡の初老の男──神崎泰蔵かんざきたいぞうだった。



「まさか、もう一度教壇に立てる日が来ようとはのう……わしもまだ、見捨てられとらんようじゃな」



その隣に立つ橘葵は、落ち着いた声で言った。



「数学で、子どもたちを支えたいと思います。少しずつでも、“できた”って思える時間を増やしてあげたい」



そして最後に、ひときわ柔らかな声が続いた。



「あなたが作る教室……きっと、あったかいんだろうな」



親しげな口調で微笑むのは、柊。聖教会から追放された者たち。けれど、彼らは再び“教える”ことを選んだ。


月は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。



「信じて、歩き続けてよかった……」



誰かにではなく、自分自身に向けるようにそう呟いたそのとき。夜風がそっと吹き抜ける。


月は、目を細めた。


その口元には、ほんのわずかに微笑みが浮かんでいた。

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