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終焉の茶会は、今日も平和に大惨事  作者: ポン吉
第4章『終焉の茶会、黒板と木槌とDIY』

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02.拒絶の交渉

月は一人、資料の束を両腕に抱え、静かに歩を進めていた。目指すのは、エルノアの街に住まう主要種族の族長たち。彼らに直接、言葉を尽くして伝えるために。


最初に訪れたのは、エルフたちの集う森の領域。自然と共に生きる彼らは、人間に対する不信の色を隠さない。族長は、月の姿を見るなり冷たい眼差しを向けた。



「自然と共に生きる我らにとって、人間の欲は災いでしかない」



月はそれでも、丁寧に一礼し、資料を差し出す。



「私は“人間”としてではなく、この街の一員として参りました。この地に、共に学び合える場所を作りたいのです。人も、獣も、妖も──」



だが、返ってきたのは容赦のない言葉だった。



「その血を引くお前が語る理想など、聞く価値もない」



資料に目を通すことすらなく、族長は背を向ける。


次に訪れたのは、魔人族の拠点。かつて幾度も裏切りに晒されてきた歴史を持つ種族だ。



「“聖教会”の出身だというのに、何を今さら理想を語る?」



月が名乗る前から、族長は厳しい声を発した。



「我らが騙された歴史は消えぬ。学ぶなど傲慢だ。己を省みることなく、教える資格などあるのか?」


「……その通りです。私は、この信頼を得るために来ました。教えるのではなく、共に学ぶ場を作るために」



族長の目は、警戒を解かなかった。



「その言葉を、我らが信じる日は来るのか──」



静かに、だがはっきりと拒絶の意志が告げられる。


三か所目は、妖精たちの棲む湖のほとり。小さな身体で現れた族長は、これまでの相手とは違い、やわらかな笑みを浮かべていた。



「悪い話ではないけれど……今はまだ、うちの子たちを通わせる気にはなれないわ」



月は深く頭を下げる。



「いつか、気が変わる日が来ることを信じています」



妖精の族長は、微笑んだまま何も言わずに去っていった。


次に足を運んだのは、亜人たちの砦。扉を開けた族長は、理知的な眼差しで月を見据えていた。



「言葉では理想を語れるが、差別と偏見は根強い。我らの子らが、それに晒されぬ保証があるか?」



月は、ほんの一瞬だけ言葉を失った。それでもすぐに、まっすぐ族長の目を見る。



「……保証は、できません。でも、何も始めなければ、差別も偏見も変わらないままです」



族長は一言も返さなかった。ただ、門の奥へと姿を消した。


日が傾き始めた帰路。月は手元の資料を抱きしめるようにして歩いていた。



「私は“人間”として来たのではありません。“この街の一員”として来たつもりでした」



けれど、その想いはまだ誰にも届いていなかった。


──その頃、ギルドでは。


カノンが窓辺に座って空を見上げていた。



「……時間、かかってるね。姉さん、無理してないかな」



クロマが背もたれに寄りかかり、苦笑する。



「月って、言葉じゃなくて態度で信頼される人だからさ。信じて待とうよ」



帝は椅子の上で膝を抱えながら、真剣な顔で言う。



「お姉ちゃんはすごいのだ! きっと全部うまくいくのだ!」



誰もそれを否定しなかった。むしろ、自分自身に言い聞かせるように、部屋に静けさが戻る。


夕暮れの街に戻ってきた月は、静かにギルドへと向かって歩いていた。その足取りは、決して軽くはない。



「……最初から簡単だとは思っていなかった。けれど、少しは届くと思っていた……」



夕日が、彼女の背を長く引き伸ばしていた。

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