01.新たなる教室、始動
ギルド、応接室。丸いテーブルを囲むようにして、カノン、帝、クロマ、ゴロー、万里、ラミリス、マスターが座っていた。
その中央に、月が設計図を広げる。
「この街に──学園を作ります」
静かに、けれども迷いのない声だった。沈黙が落ちる。
帝が、机の端に手をかけたまま、目をまん丸にする。
「お姉ちゃんが……先生になるのだ? すっごいのだ!」
隣でカノンがふわりと笑った。
「学園って……制服、あるの? 姉さん、制服のデザインは任せて!」
少し笑ってから、カノンは真面目な表情に戻る。
「……本気なんだね。姉さんの、そういうところ。ぼくは嫌いじゃないよ」
クロマが腕を組みながら、図面に目を通す。
「ギルドの次は学校、なんだね。」
ゴローは無言のまま、立ち上がるでもなく、ただ静かに月を見ていた。
「街の復興は、目に見えて進んでいます。でも、未来を担う人たちが育たなければ、それはすぐに止まってしまう」
月は続ける。
「読み書きもできない子どもが多い。魔術の扱い方すらわからずに、危険をはらんだまま日々を過ごしている。──教わることができれば、変わるんです」
帝が椅子の上でぴょんと跳ねた。
「俺も手伝うのだ! かっこいいポーズ担当とか、どうなのだ?」
月は小さく笑い、首を振る。
「ありがとう。でも、これは“交渉”なの」
「人間も、獣人も、妖怪も──皆で学び合う場所を作りたい。それが、争わず共に生きるための、最初の一歩になるはず」
「そのためには、私自身の言葉で伝えなきゃいけないの。これは、わたしの意志と責任で伝えるべきこと──だから、私が一人で行きます」
ラミリスも万里も、口を挟むことはなかった。けれど、誰一人として反対の声をあげなかった。
クロマがやれやれと肩をすくめる。
「まぁ、戻ってきたら報告してね。」
カノンが頷いた。
「……でも、危険だったら戻ってくること。姉さん一人で抱えすぎないで」
月は深く一礼するように、二人へ目を合わせて言う。
「うん、ありがとう」
そのやりとりを、マスターは椅子の背にもたれながら見ていた。
「ふふん、マスター、こういうの嫌いじゃないぞー!」
子供のような笑みを浮かべて、けれど声にはどこか達観した響きがあった。
「ちゃんと帰ってくるんだよ、月。マスター、学園ができるの楽しみにしてるからね」
誰も止めなかった。
図面を巻き取ると、月は静かに頭を下げる。
「では、行ってきます」
誰も追わず、誰も笑わなかった。けれどその背中を、誰も目で追うことを止められなかった。
ギルドの扉が、静かに閉まる音が響いた。




